003_勇者の秘密
「マーリア殿、気持ち悪いとはこちらの淑女の皆さんに失礼ではないか。
こんな俺を影から支えてくれる、
かけがえのない存在なんだぞ」
(会って昨日今日のメンバーだけどな! )
「あなた、なんで自分でしゃべらないの?
それにその話し方。
なんか背中が痒くなるわよ
気持ち悪い!」
僕だって本当は自分で喋りたいんだよ。
でも、ロムオ通してだとポンポン口からでまかせが出て気持ち悪いんだよ!
じっと見つめてくるマーリアからつい視線をそらしてしまう。
「ロムオ様になんて失礼なこと言うんですか!」
ルルの言葉にマーリアがピクッと反応した。
「ロムオだって!?
その話し方といい、名前といい、
つくづく不愉快な式神よね!
昔いた式神とそっくりで気持ち悪い!」
マーリアは冷ややかな視線をルルに向けた。
「まあいい、あなた達は今ここで私が倒してあげる」
マーリアは右手を天に掲げ、何やら詠唱を開始した。
魔族の言葉のようで、なんて発音しているか全くわからない。
「へっ、そうこなくっちゃなあ!
これでも元Sクラスの冒険者なんだ、
運が悪かったな!」
カイナは背中の大剣を引き抜くと、剣先を引きずって、チーターの如くマーリアに突進していく。
「カイナ、あなたもしかして、
あの伝説の『疾風のカイナ』なの?
なんて頼もしいんでしょう!
私も援護しますわ!」
『フロストスパイア』
ルルが生成した氷の柱はマーリアを取り囲むように生成され、正面から突進してくるカイナからの逃げ場を全て奪った。
「おりゃあ!」
カイナは最後の一足で地面を砕きながら跳躍し、マーリアをその射程距離に一気に縮める。
体をひねり大剣を自らに絡め取り、遠心力を乗せたその重い剣を標的の真上から振り下ろした。
その刹那、ルルの氷柱が一気に降り注ぐ。
――マーリアの姿はどこにもない。あとにはゆっくり広がる砂埃と、氷の山、そして静寂だけが残されていた。
「けっ、大したことねえなあ。準備運動にもなりゃしねえ」
「ロムオ様の出番がありませんでしたわね」
「勝ったの!? わーい」
「皆、俺のために戦ってくれて有難う。
でも侮ってはいけない。
なんせ彼女達の力はこんなものじゃ無いはずだ……」
――ロムオの言葉に少し違和感を感じた。まるで前から知っているような口ぶりだった。
その時バキバキっと氷柱が砕ける音が響いた。
そこに現れたのは、純白に発光した、大きな卵のような物体が一つ。
卵の表面が一枚、また一枚と静かに剥がれ落ちていく。
そのたびに、眩い光が隙間から漏れ出す。
やがて、周囲を神秘的な輝きで包み込んだ。
発光が収まり目が慣れてくると、そこには無傷のマーリアが立っていた。
彼女の背後には大きな羽を広げた一体の人形が、まるで守護者のように彼女を包み込んでいる。
「おお、いつ見ても美しい!」
(いつ見てもって、初見のはずなんだけど……)
人形の羽が放つ輝きが、これまで影に隠れていたマーリアの顔を照らし出す。
その顔立ちは幼さを残しつつも、瞳には揺るぎない意志が宿っている。
その力強さに、僕は思わず息を呑んだ。
(綺麗でかっこいい人だなー)
敵なのに、つい素直な感想が出てしまった。
そもそも僕はこの世界に来たのが昨日で、魔族に対して何の敵対心ももっていない。
ルルやカイナは無傷のマーリアを見て悔しがっていたが。
「勇者一行って肩書だけで、大したことないわね!
西の勇者のほうがもっと強かったわよ。
がっかりだわ」
「ねえマーリア、もうあいつらやっちゃっていい?
なんだか見てるだけでチョーむかつくの!」
「ええ、ジュリエッタお願いするわ」
マーリアは人形のことをジュリエッタと呼んだ。
ロムオと違い、腹話術ではなく自立しているみたいだ。
そう言えばさっき僕のことをみて『おまえ式神使いか』って言ってたのを思い出した。
――あの「ジュリエッタ」っていうのが式神なのかな?
「ああ、ジュリエッタ。
いつ見ても美しい、俺はロミオだ!
また会える日をどれだけ心待ちにしたことか!」
(またそうやってナンパする! )
「ロムオ様、いくらなんでも相手は敵ですよ?」
「ちょっと待てルル、なんか考えがあってのことかもしれねえぞ?」
ジュリエッタはじっとこちらのやり取りを見ていたが、握りしめた拳はブルブルと震え、ひどく怒っているようだ。
その様子は、僕の昔の記憶を呼び戻した。
幼稚園の頃、ふざけて帽子を何度も取ってたらブチ切れてしまったゆみちゃん。雰囲気がそっくりだ。ゆみちゃん元気にしてるかなあ。
「まじでムカつくー、
言ってることも、
女たらしなのも、
みんなあいつと一緒じゃん!」
「話を聞いてくれ、
俺は本物のロムオなんだ!」
(初対面だよね!? 本物のロムオってどういう事? )
「そんな訳ないでしょー、
ロムオは西の勇者に倒されちゃったわよ!
それから私はずっと一人ぼっちなんだから、
ふざけるのも大概にして!」
「ああ、たしかに俺は西の勇者に倒された。
だから式神として消滅するのを覚悟したんだ!
でもそうはならなかった……」
ロムオは語りだした。勇者に倒され、気がついたら真っ暗な空間に閉じ込められていた。
自分自身の体も全く動かない。
ああここは式神の墓場かと諦めていた。
そこに従者トニーが現れ、無限の牢獄から解き放ってくれたのだと。
(随分真実味のある話だなぁ……)
――ロムオは続ける。
そこで悟ったんだ。俺は異世界、つまりトニーの世界に飛ばされたんだと。
そんな状況でもジュリエッタのことは一度も忘れたことはない。
毎日元の世界に帰れることを望んでいた。
そしてついにトニーがそれを叶えてくれたんだ!
「あなた、本当にあのロムオなの!?」
(え、信じるの? )
「ああそうだジュリエッタ!
また君と、
あの夕日が綺麗な『ヴェスペラの丘』で、
二人の夢の続きを語りたいんだ!」
「そんな事まで知ってるなんて、
本当にロムオ、あなたなのね。
もう二度と会えないと思ってた……」
(いやあの、本当に知り合いだったんですか!? )
今の話が本当なら、ロムオは元々この世界の式神だったってことになる。
僕が腹話術を使う時、妙に陽キャになってしまったのは実はロムオに憑依されていたとか!?
こっちの世界でハーレム作ったのも、もしかして式神の能力?
いろいろ辻褄があいすぎる……
ジュリエッタはうつむきながら、だらんと下げた両手をぎゅっと握りしめた。
最初ワナワナと震えていたその手は、やがて激しく肩まで揺らし、その髪は怒髪天が如く逆立っている。
「よくもノコノコと、
私の前に平気な顔して戻ってこれたわね!
ボッコボコにしてやるわ!!!」
「なんでそうなるんだ!」
(なんでそうなるの!? )
この時、僕は初めてロムオと意見があった気がした。




