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001_勇者は腹話術人形

「勇者様、我が召喚魔法に応えていただき、まことにありがとうございます。

 お名前を……その、うかがっても?」



 眼の前の女性にそう問いかけられ、緊張で何も言えなかった。

 僕の右手には、召喚前に付けていた人形がそのままになっていて、つい腹話術で答えてしまった。



「ロ、ロム男です……」

 (しまった! いつもの癖で……)


「まあ、『ロムオ』様っておっしゃるのですね!

 素敵な名前!」


 (違うんだってばあああ!! )


「申し遅れました、私、『ルル』と申します。

 この国の王女であり、聖女でもあります。」



 そうルルは自己紹介をし、その潤んだ目は腹話術人形のロムオに向けられ、頬がほんのりと紅潮していた。

 まるで恋する乙女そのものである。



 (なんで人形を見つめてるの!? これただの腹話術人形だよ! )



 ――そもそもなぜこんな状況になってしまったのか……



 *****



 僕は深谷 登仁(ふかや とに)、皆から『トニー』と呼ばれている。

 陽キャのようなあだ名だけど、昔から人前で話すのが大の苦手だ。何か話そうとしてもうまく言葉に出てこない。


 ある日文化祭の出し物で、学校の倉庫に何か使えるものがないかと皆で探しに行ったことがある。


 ――その時見つけたのがこの腹話術人形だ。


 体長は約60cm、手元の操作で口はパクパク、目はぱちぱちと操作できる。幼い頃、交通安全教室で見た人形とよく似たものだった。ただ蝶ネクタイにチェックのベストと、少しおしゃれな感じが違うところだった。


 なんとなくその人形を右手に装着してみると、僕のほとんど動かない唇から、無意識に声が漏れ出た。



「なあ、こんな変な人形みつけたぜ!」

 (ねえ、こんな人形見つけたよ! )


「「「……」」」



 皆、誰の声だ、どこからした? と軽く混乱したようだった。しばらくしてそれが僕の腹話術だと気がついた。



「ちゃんと喋れたじゃん!」

「すごーい」

「文化祭でなんかできるんじゃね?」



 僕は当然断ろうとした。でも、この人形を手にしていると、べらべらと口が軽くなって、反射的に「やる」と言ってしまった。


 ――まるで別の人格に憑依されてしまったような、とっても不思議な感覚だった。


 なんだかんだで腹話術の出し物として成功してしまった。


 その後、友達のすすめで腹話術系youtuberをやってみることにした。

 いつもコメントはロム専だったので、人形の名前は『ロム男』とした。


 そして、試しに配信用の動画を取っていた時に、真っ白な光に包まれ、勇者召喚に巻き込まれてしまったんだ。



 *****



 ――僕は今、聖女に連れられ、玉座の間で膝をついている。



「おお、勇者『ロムオ』殿、よくぞ参られた。

 我がデルミン国では……」



 王様の長い長い話が始まった。要は魔王が世界征服しようとしていて、各国が勇者召喚で対応している。

 僕もそのうちの一人ということだ。


 僕はライトノベルが大好きだった。異世界転移や転生はあったらいいなと少し憧れもあった。

 実はここに召喚される前、一度神様に会っている。

 そこでチートもいっぱいもらったので、どんな活躍ができるかと少しワクワクしているのだ。



「王よ、この勇者ことロムオが、そんな奴らいっぺんに蹴散らせて見せますぞ!

 今すぐ出発だ!」

 (ああ、また思ってもないことを! )


「ああなんて頼もしい勇者様なのでしょう!

 でも今日はもうすぐ日が暮れますわ。

 今日はゆっくり休んで、明日あらためて計画を建てましょう!」


「うむ、ルルよ、そなたに勇者の身の回りの世話を任せたぞ!

 我が国の勇者は大当たりじゃ!」


「うむ、仕方がない。

 明日出発することにしよう。

 ふはははは」

 (なんでそんな事いっちゃうのー、魔法の練習とかしたいんだけどー)



 王の謁見が終わり、僕とルルは広々とした城内を歩く。



「こちらがロムオ様のお部屋ですわ」



 白を基調とした豪華な客室。天蓋つきのベッド、絹のカーテン、ふかふかの絨毯。完全に貴族のお部屋である。



「後でお食事をお持ちしますね!

 あと、なにか不足があれば……その……私に言ってくださいね?」



 ルルは相変わらずロムオを見つめて微笑んでいる。


 ルルは僕より小柄だ。歳も同じぐらいだろうか。そのほほ笑みから隠れ見える利発そうな眼差しは、きっと誰もが心を奪われるだろう。

 その可愛らしさは、まさに王女にふさわしいものだ。


 だが、その視線が向けられているのはロムオであり、僕にとってはちっとも嬉しくない状況だ。



「つかぬことをお伺いしても?」

 (そうそう、どうしても確認したいことがある! )


「はい! 何でしょうか?」


「ルルの目には、俺はどの様に写っているのだろうか。

 この小さな体が勇者だとは、

 いささか大げさではないだろうか」

 (よし! うまいこと聞けたぞ! )


「そんな、なんて謙虚な方……!

 我が国のどの騎士よりも堂々とした体格。

 そして、気品あふれる立ち振舞――

 まさに伝説の勇者様ですわ!」



 ルルはロムオの胸板(つまり人形の胸板)をうっとりと見つめている。だが僕にはどう見ても騎士より立派だとは思えなかった。



 (召喚って幻覚まで引き起こすんだろうか……)


「ご配慮、痛み入る、ルルよ。

 そなたのように気が利く方がそばにいてくれるとは、これほど心強いことはない。

 これからも、どうか私を支えてくれないか?」

 (なんでそんな軽口がぽんぽんでるのー)


「はわ……っ……なななんて…紳士な……」



 ルルの頬はみるみるうちに紅潮し、その手は胸元を押さえながら、ふらふらと部屋を出ていった。


 僕はそっと、人形をテーブルに置いた。



 (……どうしてこうなった)



 ロムオは無言だ。ただの人形なのに、どこか勝ち誇った表情に見える。



 (いや気のせいだよな? )



 そこへ――


 コンコン。



「勇者様、夕食をお持ちしましたわ……」



 さっきのルルとは違う声だ。慌てて人形を右手に装着した。


 扉が開くと、金髪のメイドが数人、慎ましやかにお辞儀をする。



「勇者ロムオ様が召喚されたと聞き、私ども一同、感激しております……!」



 全員の視線は、ロムオに向いている。僕は「またか!」と呆れてしまった。



「うむ、ありがとう。そなたらの献身には感謝している。

 これからも頼りにさせてほしい。」

 (なんでそんな言葉が流暢に出るんだよ! )



 メイドたちは一斉に目を輝かせる。



「きゃああああ!!」

「なんてお優しいお声……!」

「素敵……っ!!」



 その瞬間、僕は確信した。


 ――この世界、人形が本気でハーレムを作り始めている。



 (ちょっ、やめろおおおお!

 僕の手なのに! 僕の声なのに!

 なんで人形が主役なんだよおおお!! )




 *****




「うわあああん、ロムオ様が死んじゃったー」



 その声に俺は寝ぼけ眼をこすりながら、ここはどこだと目を覚ました。



「ちょっとあなた従者でしょ!

 ロムオ様の面倒しっかり見なさいよ!」



 ルルは人形の頭をガックンガックンと前後に揺らしながら、視線だけ俺に向けて文句を言ってくる。


 月明かりで薄っすらとしか見えないが、ルルは寝間着だ。これはいわゆる夜這いというものか?

 王女か聖女かしらないけど、なかなか積極的な女の子だ。こんなこと本当にあるんだと妙に心が冷めてしまった。



 僕はルルから人形を剥ぎ取り、右手に装着する。



「ルルよ、気持ちは嬉しいが、受け取ることは出来ない。

 俺には心に決めた女性がいるのだ!

 許しておくれ、マイハニー」


「ロムオ様、ご無事でしたのね!

 今夜は一旦引き下がりますわ。

 でも絶対に私に振り向かせて見せますわ……」



 ルルは大粒の涙を浮かべ、目頭を押さえながら部屋を出ていった。



 (誰だよ心に決めた女性って! )



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