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風雲あかし城  作者: サツマイモ好き☆黒い安息日
四番目物【雑能】
60/60

眠れる森の美女 第二幕 Спящая красавица второе



 南木綾音は眠っている

 有馬翔子は座して綾音を見ている


 床の間には「天家璃々」と書かれた掛け軸

 そして刀掛けに大小の得物

 綾音が腰に差していたものだ


 彼女が兄・南木景樹と共に

 唐櫃の里へと疎開する前から

 眠ったままだという

 とはいえ

 海野アケミから解放された時点で正気を失っており

 景樹も

 翔子も

 綾音とは言葉を交わしていない


 有馬翔子は南木景樹に恋愛感情を持っていたのだろうか


 あるのかもしれない

 だが正確には

 景樹のような兄が欲しかったのだ

 景樹の妹になりたかったのだ

 そして今

 翔子の前に眠るのは

 彼女が憧れていた立場である景樹の妹


 南木綾音は眠っている

 有馬翔子は座して綾音を見ている



◇◇◇



 警察や消防、自衛隊や軍隊、警備員


 彼らはなぜ号令に合わせ

 行動するのだろうか


「気をつけ」「礼」「右向け右」「前へ進め」


 このような行動に

 どのような意味があるのか

 そして「武道」「武術」においても

 似たような行動をとらせている


「構え」「セイッ!」「セイッ!」「もっと声を出せ!」


 その本質を

 読者諸兄姉は考察されたことはあるだろうか?



 結論から先に述べよう、「洗脳」である

 たとえば「火事」

 たとえば「犯罪者」

 たとえば「戦場」

 危険に立ち向かう時、人としての「本能」が拒む


 それをねじ伏せる技術

 集団心理と催眠を駆使した人類の英知


 「制服」というのも似た効果がある


 群衆が見守る中で

 「制服」を着た者が

 危険を前にして逃げることが出来るだろうか?



 「武術」は論外として

 「武道」の本質も暴力である

 暴力を振るうということは「危険」な行為であり

 相手の反撃や社会的制裁はもちろん

 超えてはならぬ一線を踏む恐怖、それを乗り越えなければならない状況で発動させる「洗脳」の技術を有している


 それがスポーツとの大きな違いなのだ

 古流武術の型などで特定の構えや行動をとるとき

 声を出すことが指定されている場合は

 本来そういった理由があったりする

 (現在そのほとんどが形骸化しているが……)


 なお、暗殺術では逆にそういった技術を有しない

 すでに倫理的一線を超えた人間が使用する術だからだ



 「洗脳」を必要とせず

 「危険」に飛び込めたり

 暴力や殺人を厭わないと自称する者も存在するが

 それは、事の前後を考える知能も持たないか

 あるいは出来もしないのに見栄を張る嘘つき

 もしくは単なる異常者と言えよう


 「勇気」とは技術である

 ステージに立つとき足が震えるのは

 勉強と練習が追い付いていない

 つまり「洗脳」が足りないのだ



◇◇◇



 南木綾音は眠っている

 その腕はカテーテルが刺さっており

 クレンメで調整された点滴が

 少しづつ流されている


 有馬翔子は医学の知識を有さないが予感している

 南木綾音が二度と目覚めることはないだろうと


 それが綾音にとって幸せかどうかは

 わからないし

 知ったことではない

 だが兄、南木景樹にとっては……



「…………許せない。」



 憤りを感じている

 景樹の関心をすべて奪い

 自分が欲して止まない立場にありながら

 ただ眠り続けるだけ


 有馬翔子は座して綾音を見ている


 輸液バックから少しずつ

 点滴筒にぽたり、ぽたりと

 雫のように液体が落ちる

 

 そういえば、この部屋には

 アレが隠されているはずだ


 アレ、とは先日

 信濃守千代丸が口にしてひと騒動を起こした

 唐櫃衆に伝わる秘薬

 ヨーグルト=ソース


 正確には唐櫃衆が受け継いできた秘蔵書

 「六甲宮下文書写本」

 に記載されていた調合を元に

 六甲牧場の牛乳と

 エスカルゴ女学院の研究室で培養した乳酸菌

 ダンウィッチ株を用いた銀色の物体


 それは人を、神を、魔人を、


 等しく確率の靄 (もや) に還すのだ



 何が起きるかわからない

 だが、何かが起こせるかもしれない

 絶対不可能な事であっても


 なぜ、今それが頭をよぎったのか


 駄目だ、導かれている

 有馬翔子は導かれている

 それが良いものでないことは予感できる

 だが誘惑というものは

 決して

 決して

 決して自らの意思で

 跳ね除けることなどできないのだ


 もしかしたら……

 もしかしたら……


 有馬翔子は武術家ではないが

 忍びの家系であり暗殺者である

 相手が殺意を持って近寄らば

 殺意を持って返礼するを良しとする


 ならば


 相手を殺傷せんと欲するならば

 まずは自らの死を覚悟すべし


 南木綾音の寝顔に

 南木景樹の面影を見る


 せめて


 せめて自らが率先することで

 景樹への誠意を示そう




 有馬翔子は、ヨーグルト=ソースを口に含んだ

 そして口移しに

 南木綾音へ注ぎ込んだ



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