断罪! 断罪! まだ断罪!!
水死体の次は大量殺人だった
捜査本部のホワイトボードに貼られた現場写真
とある一軒家
屋敷内は壮絶な惨劇
だが刑事はそれを詳細に観察し
犯人の影を追う
犯行現場に残された身元不明の足跡
一つは24.5㎝のスニーカー
一つは非常に特殊な功夫シューズ (?)
スニーカーはともかく、功夫シューズ (?) は足跡から
殺陣 (たち) を演じたような動きが見られ
多くの血糊を浴びたであろう痕跡も残されている
捜査本部には公安の水野 (みずの) の姿もあった
刑事は水野に厳しく問いかける
「……水野さん、こうなるの知ってたんじゃないの?」
「い、いえ、さすがに先は読めませんでした」
「……でもこれ、いわゆる返し、ですよね?」
(返し:報復)
「い、いえいえ、早計な決めつけは危険です」
動揺する水野は恰幅の良い体を揺らし
大きくかぶりを振った
「そもそも、水死体の男は小モノです」
「……返しの対象になるほどの価値は無い、と?」
「はい、これは違う意図による事件だと考えられます」
「……では内部抗争による内ゲバ?」
「それなら事件化する前に、組織内で処理するはずです」
水死体の男は王政復古派だった
今回の事件も殺されたのは王政復古派が数人
ただ、ひとり例外があった
「……ほとんどがね、見事な惨殺死体ですよ」
「ええ、一刀のもとに切り殺されてますねえ」
「……問題は、この人物ですよ」
残酷な拷問を受けた死体の写真が
水野の前に差し出された
刑事はここから報復事件だと推理したわけだが
実は、より深刻で不可解な状況を
写真は提示しているのだ
「聞いてはいましたが、いやはや信じられません」
「……ですが、ご覧のとおり事実です」
「ご本人、ということはありませんよね?」
「……ええ、確認しましたがご健在です」
水野は写真をつぶさに観察する
拷問の詳細ではない
死体の顔だ
「どう見ても魚之棚 直宗、元明石城主のナオムネですな」
「……ええ、瓜二つとしか言いようがありません」
「整形とか影武者の可能性は?」
「……DNAは鑑定中ですが、歯形は一致しています」
動揺するばかりだった水野の表情に
わずかな陰りが見えた
刑事はそれを見逃さない
「……水野さん、公安は何か知ってるんでしょ?」
水野は無言だった
だがそれが答えだった
公安の水野、だが彼の一存では話せない事もある
「話は一度持ち帰ります、後日改めてお話しします」
◇◇◇
見つけた
南木景樹だ
眷属の男、ルリヲは距離を空け後を付ける
南木景樹は人気の少ない商業ビルに入った
尾行を撒く常套手段だ
ルリヲは慎重に後を追う
六階建てのビルは一階が飲食店
二階がサラ金
三階が元雀荘の空きテナント
四階が……
罠だ
四階の踊り場で、ルリヲは足を止めた
三階と五階から、わらわらと人が集まってくる
口元はマスクなどで隠しているが
バットやナイフを持った手から刺青をちらつかせていた
「なんか生臭くね?」
「ハハハ」
声が若い、まだ子供だろう
総勢六人といったところか
精一杯イキッたファッションから察するに
闇バイトか何かで雇われた感じか
少なくとも南木景樹の手下ではなさそうだ
ルリヲは腕を強く振った
ジャコン!
金属音が狭い通路に響く
ルリヲが隠し持っていた警棒を伸ばす音だ
まずは飛び込んで小手
手前の若者を狙う
入れ墨だらけの手首に叩きつける衝撃
本物の警棒は重い
40センチ弱と短めだが、要は金属の棒である
人を死に至らしめるほどではないが
使いこなせば人の骨など簡単に砕く
手を押さえうずくまる少年
その奥にいた男の喉仏を突く
ゴリっとした感触
警棒の重みを利用して
背後から迫って来た少年の額を打つ
軽くコツンと叩いただけだったが
頭を抱え倒れ込んだ
残り三人
ここからは効率と安全を重視した
ハッタリ劇場の開幕である
ルリヲはドスを効かし静かに話す
「おう、兄ちゃん、どこのモンじゃ」
「…………」
「言わんかいコラ、家族も探して皆殺しにすんぞ」
出来るわけがない
そもそも彼らの素性も知らないのに
家族なんて探せるわけがない
かりに探せたところで手なんか出したら
全国指名手配まちがいなし
しかし脅しは勢い任せ
アドリブ重視の演技力
雰囲気とノリの説得力
「おいコラ、喋れんのかい、喋れるようにしたろか」
「……いや、ボクらそんな……」
「どっから来たんやって聞いとんや」
「……ネットの募集で……」
「〇〇会の人間とちゃうんかい」
「……ち、ちがいます」
「チッ、ほな許したるわ、帰れ」
「……はいいいいいい!」
〇〇会とは、なにかそれっぽい
適当な名前を出しただけだった
ルリヲが推測した通り
彼らはターゲットの詳細を聞かされていない
だからハッタリが効くと踏んだのだ
正直三人もいれば
一人相手だと余裕で制圧できるはずだが
なんせ馬鹿の寄せ集め
統制も取れておらずハッタリに弱いのだ
うずくまる三人はほったらかしで
残る三人は脱兎のごとく階段を下りて行った
眷属の男ルリヲ
壁に警棒の先端を何度も叩きつけて収納
(ガチの警棒は簡単に戻らない)
南木景樹を追って屋上を目指す




