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風雲あかし城  作者: キャベツが主食の☆黒い安息日
三番目物【鬘能】
50/59

僕のカルトへようこそ


 かつてシスターの手下として繁華街で

 王政復古を叫び演説やビラ配りをしていた男


 彼は今、恐怖に怯えていた

 彼は今、孤独に震えていた

 彼はただ、カルトに酔っていただけなのだ


 楽しかった

 熱中した

 大勢の仲間が出来た


 それが正しいかどうかなんて関係ない

 それを正しいとすることに意味があるのだ

 むしろ現実離れしている方が

 崇高な使命に思えて夢中になれた


 だが、知ってしまうと

 知らないには戻れない


 海洋性外来生物、複製人間、眷属、魔人、神……

 現アーカシ政権中枢に関わる悍ましい数々の実態


 王政復古派の中にはいまだ酔いが醒めぬ者もいて

 新たな盟主となった「明石だんご協会」と共に

 彼らは活動を続けている


 だが、男は限界だった

 彼は凡人だった

 狂人を演じ切ることができなかったのだ


 高い理想と現実のギャップ

 破壊と扇動しか出来ない己の無能 


 だが社会復帰はできない

 すでに手遅れなのだ

 周囲からは危険な異常者として避けられている



「この俺が怪しげなら……アンタら一体何様のつもりだ」



 孤独を癒してくれたカルトによって

 男の孤独は深まっていた


 その姿は喉の渇きを癒すため海水を口にした

 漂流者そのものであった


 彼はアパートの一室で膝を抱えている

 

 来客があった

 数人の見知らぬ連中

 サングラスなどで顔を隠している

 その中心人物らしき女が言った



「〇〇 (男の名前) 、男と見込ンで頼みがある」


「俺に?」


「あンたに、やって欲しいことがあるンや」


「俺じゃないとダメなのか?」


「せや、あンたにしか出来ン、あンたの使命や」



 男の胸が高鳴る

 血流が体を周り

 失われた興奮が蘇る


 自分の氏名

 自分を指名

 自分に使命……

 


「市にはびこる化け物どもを、明石から追い出すンや」


「俺に出来るのか?」


「出来る、あンたが明石を、天下を揺るがせるンや」



 とある革命家は言った

 宗教はアヘンだと……


 だが、革命はコカインじゃないか!

 どちらも中毒性の高い麻薬で

 アッパーかダウナーの違いでしかないのだ


 酔って酔わせて世を捨てて

 狂い狂わせ全てを苦しめた

 あの陶酔感……

 俺は……

 もう一度味わえるのかッ!



「まずあンたに、探って欲しい事があるンや、それは……」



◇◇◇



 眷属の男ルリヲが見ても、市役所の職員が

 複製かどうかなんて見分けがつくわけではない

 言動や行動でなんとなく察しているだけだ


 一般の職員はともかく幹部職員

 特に政策に関わる面々は

 複製か眷属で占められているとは思うのだが

 

 ただ、さすがに同族である眷属は

 その風貌や独特の体臭で一目瞭然ではある



 複製は本人を模して造られるためか

 その本質が強く強調された性質で顕現するらしい

 そして意外と言うか流石と言うべきか

 市役所職員の複製は、市民生活の混乱を嫌い

 安定した社会を構築すべく行動する傾向にある



「へへ、誰かさんの思惑たあ、違ったわけだ」



 かつてはシスター、現だんご協会の老翁らは

 複製人間に凶暴かつ直情的な行動を求めていた

 

 法と理性なき人間の本質は

 そのようなものであると期待したのだろう


 だが、違ったのだ

 法がなくても秩序はあり

 理性無くても善性はある

 それもまた、人間の本性なのだ


 もはや言語も発しない荒れ狂うだけの市長はともかく

 アーカシ市政そのものは意外なほど平穏だった

 


「さてさて、あたしも、あたしの仕事、しねえとな」



 眷属の男ルリヲは

 前市長・海野アケミ一門を探し街に出る



◇◇◇



「宗教はカルトや、せやろ?」



 シスターの手下をスパイに仕立て上げた女は

 男のアパートから少し離れた路上で

 同行する女剣士に話しかける


 だが、返答はない

 女剣士はあの日以来、心が壊れたままだ



「政治団体もカルトや、せやろ?」



 女は返答がなくてもお構いなしだ

 女剣士は無言で、視線もおぼつかない



「先端科学もカルトや、せやろ?」



 話が怪しくなってきた

 確かに難しい科学の理論を理解できる者は少ない

 ただ偉い学者さんが言ってる事を信じているだけだ

 とはいえ、極論が過ぎるのでは?



「世界はカルトや、あははははははははは!」



 心が壊れたのは、女剣士だけではなかった

 海野アケミ、前明石市長もまた

 重圧な責任感と絶望感で正気を失っていた

 

 ルサンチマン


 正義が破れ敗北者となり

 誇り高き市名も汚された

 悪徳が君臨するアーカシ市


 選挙戦は文字通り戦争だった

 不正の有無など言うに及ばず

 暗殺や破壊工作が横行した


 その後の市政が乱れたなら義憤にも酔えたのだが

 予想外に安定した現状が、逆に彼女を狂わせるのだ



「我怨天子無絶期 (我天子を怨むこと絶ゆる期無し)!!」



 海野アケミが絶叫する

 周辺の支援者が止めに入るも

 女剣士・南木綾音は黙したままだった

 


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