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風雲あかし城  作者: キャベツが主食の☆黒い安息日
三番目物【鬘能】
44/59

踊るダメ魔人



「あら、素敵じゃない♡」



 信濃守千代丸はイーオンのダンジョンでスーツをあしらえてもらった

 細身の体にイタリアンのスタイルは似合う

 しかもお洒落なフェドラーハット (中折れ帽) 付だ



「でも、お金もないのにいいのかしら♡」



 一応申し訳なさそうに千代丸は聞いた

 しかし色分けされたユニフォームのイーオン店員は一様にうなずく

 無償で衣服を提供してくれたのだ



「ワクワクの赤、バリュー・レッド、いいってことよ!」


「オーガニックの緑、グリーンアイ、似合っているぜ!」


「格安の黄、ベストプライス・イエロー、出世払いだ!」


「高級な黒、バリュセレクト、ボクを忘れないで……」




 困ったときはお互いさま、そう言ってくれる彼ら

 遠巻きに見ていたダンジョンの冒険者たちが拍手する


 千代丸は珍しく照れくさそうに微笑んだ

 そして感謝を形にしたい気持ちになった



♪たん、たん、たん、たん



 喜びで少し高ぶる心臓の鼓動に合わせ

 提供してもらった革靴でリズムを刻む


 中折れ帽を人差し指で

 少し前に下げ顔を隠し


 もう一方の手で鳴らしだす

 派手なフィンガースナップ

 


♪パッチン、パッチン、パッチン、パッチン



 素敵な服を ありがとう♡

 全ての福を あなたへと♡



 千代丸は舞う、それはキレのいいロボットダンス



 ここは明石 すてきなところ♡

 感謝の証し すべきなところ♡

 今のアタシは 歓喜のこころ♡

 踊り明かして 天までのぼろ♡



♪誰かが刻むエイトビート

         粋なボイパで皆がヒート



 イーオンのスタッフ、冒険者たち

           誰もがつられて踊り出す



♪SAY HOO♡    「HOO!」

 SAY HOO HOO♡  「HOO! HOO!」

   


 もはや韻 (ライム) もふまず、好きに歌う千代丸

    イーオンのスタッフ、冒険者たちもそれに応える

 


♪「疑いは 人にあり 天に偽り 無きものを♡」

    「あら恥かしやさらばとて 羽衣を返し與ふれば」



 HAGO ROOMO♡  「HAGO ROOMO!」

 HAGO RO♡MO♡ 「HAGO RO!MO!」

 ・

 ・

 ・

 ・



 ……なんだこれ?


 とりあえず混沌とした楽しい宴が

      イーオンのダンジョンで行なわれたのであった




◇◇◇



 明石市内に数件ある隠れ家の

 高い垣根に囲まれた小さな庭


 元明石市役所 政策局員、南木景樹 (なんぎ かげき) はそこで素振りを行っていた


 手にするのは乱れ刃の真剣

 真言を刻み陰陽の術が仕込まれたその刀は、重い


 だが、その振り方は居合のそれと違っていた

 むしろ剣道、竹刀での打ち方に近い


 アーカシ市長および、その眷属を斬る

 必要なのは重さより、剣先の速さ

 それが有効であると判断しての鍛錬であった



「……景樹どの、客人にござる」



 唐櫃 (からと) 衆の忍びが縁側に現れ、告げる

 とはいえ世を忍び身を隠す景樹に、急な客……


 剣呑なれど唐櫃衆が応対するということは知己の者か

(剣呑:けんのん、危険な雰囲気という意味)



「何者か……、まあいい、通せ」


「……は。」



 唐櫃衆がその客人を呼ぼうとするも

 そんなこと関係ないとばかりに男は庭に入ってきた

 無遠慮、無作法、無神経の極み……



「はろー、景樹ぃ、おひさしぶりぶりぶり♡」



 南木景樹、絶句

 そこに立つは、信濃守千代丸

 なぜかスーツを着ているが、間違いなく千代丸だ



「ち、千代丸! 生きていたのか!」


「むしろこっちのセリフなんだけど♡」


「よくぞ、無事でいてくれた!」



 お互い相手は失踪したものだと認識していたのだ

 もっとも千代丸の方は、あまり深く考えていないのだが



「ねえ、市役所が変になっててビックリしたんだけど♡」



 千代丸はイーオンのダンジョンで衣服を入手し

 その後、明石市役所を訪れた


 しかし、そこは廃墟と化していて

 近隣の住民が旧・明石城の地下に移転したと教えてくれた



「市長も変わっちゃってるしぃ……

        なんか面倒だから帰ってきちゃった♡」



 新たなアーカシ市役所を訪れた千代丸

 彼の来訪に気付いた馴染みの市職員が

 唐櫃衆に連絡をつなげ今に至るのだった



「うむ、色々あってな、千代丸、お主どこまで知っている」



 二人は情報をすり合わせる……が、おかしい

 幾つかの話が合わない

 所々に矛盾がある



 ……歴史や時空が狂ったとでもいうのか?



 アーカシ・ウォンターナが王政を復興し

 アーカシ市長として君臨している

 これは現在進行形の事実であり間違いない


 だが、詳細が合わないのだ


 とはいえ千代丸は昔から常にいい加減

 彼の話は基本的に鵜呑みできない

 ただ、ひとまず身を隠す必要はあるだろう



「千代丸、ここに住め、我らと共に行動せよ」


「それはいいけど、綾音は今どうしてるの♡」



 南木景樹、露骨に目をそらし答えた



「……知らん」



 庭の隅には井戸があり

   そこに枯葉が吸われるように

     落ちて行く様を千代丸は見た




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