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風雲あかし城  作者: キャベツが主食の☆黒い安息日
三番目物【鬘能】
43/59

カラダ・カクシ・タマエ



 信濃守 千代丸 (しなののかみ ちよまる) は海岸で目を覚ました



「んもー! なんだってのよ♡」



 午前五時、夜明けには早い

 基本怠惰な千代丸だが、今日はとりあえず目が覚めた



「ていうか、何でこんなとこで寝てたのかしら♡」



 ええと確か……

 名前忘れたけど筋肉女と戦ってて……

 後からもう一人筋肉女が出てきて……


 なんとなく思い出してきたわ♡


 あいつらのせいでアタシもあの「渦」の中……

 ルルなんとかっていう「館」に連れてかれて……


 もぅマヂ海……イルカ見ょ……


 「館」に入ると「その人が増える」んだっけ……

 つまり、同じ人間が「複製」される……

 ていうことはアタシも……




「……ま、どうでもいいわ♡」



 

 別に自分が増えていても

 千代丸は全然気にしない


 何人いても自分は自分

 複製がいても要は他人


 自分は本物か?

 なんて哲学的考察を

 信濃守千代丸がするわけねー! のである



「情熱があればフェイクでもホンモノよ♡」



 急にラーメンが食べたくなった千代丸

 辺りを見渡す


 ここは海岸、海の向こうに大きな島と長い橋

 あれは間違いなく明石海峡大橋

 つまりここは明石の海岸なのだろうか?

 

 釣りをしている人がいる

 声をかけてみよう



「あのぉ、ここは何処の海岸かしら♡」



 釣り人は千代丸を見るなり、絶叫して逃げて行った

 急に声を掛けられて驚いたのだろうか

 とりあえず街並みの見える方角を目指して歩き出した



「ぎゃー!」


「う、うわあああ!」



 千代丸を目にした人々が、次々と絶叫し逃げる

 化け物でも見たように怯える彼らの形相

 千代丸も違和感を感じ始めた


 開店前の店舗

 ガラス張りの奥はカーテンが敷かれ

 千代丸は写し出された自分の姿を見た

 衝撃を受ける



 全裸だった



 服を着ていなかったのだ



 それだけでも驚きだが

 それに今まで気付かなかったのは更に驚きだ

 しかし千代丸本人は

 違う意味で驚きを感じていた



「う……美しい……♡」



 ガラスに写る自分の姿

 引き締まった筋肉

 スラリとした長身

 浜辺美波など比べ物にならない美貌 (自称)

 それが一糸まとわず写し出されているのだ



「ふんッ! むんっ! ニッコリ♡」



 ポージングを決めながら自らの肉体に見とれる千代丸

 周囲の絶叫は大きくなる一方だが、本人の耳には入らない



 とどろくサイレン

 またたく赤色灯

 どんどん出てくるパトロールカー (パトロールカー!)



 いろんな車が、あるんだなぁ、と気にしなかった千代丸だが

 取り囲まれ銃を向けられた時点で自分が原因と気付き逃走した


 警察は追いかけてきたが、魔人である千代丸の身体能力にはかなわない

 その日のアーカシ市は、全裸で市街地を走る変態の噂で持ちきりだった



◇◇◇



 さすがに全裸で徘徊するのは危険なので、千代丸は身を隠すことにした


 なお彼にとっての危険とは

 自身のセクシーな裸体が不埒な視線を集めてしまうことであり

 社会通念上の倫理観に基づいたものではない


 ただ、千代丸の裸体をそんな目で見る者はおらず

 普通は即座に大声を上げて逃走するか

 あるいは落ち着いて110番通報するのが一般的な反応である


 なお、彼のポージングを写し続けたガラスは

 その後力尽きたかのように砕け散ったという……



「あら、こんなところに手頃な洞窟が♡」



 "手頃な洞窟" と言うパワーワード

 しかし明石市に洞窟なんてあっただろうか?


 そんな疑問も抱きつつ、千代丸はダンジョンに入る

 中は寒く凍えそうだったが、膝を抱え座り込んだ



────────────────────


Rire toujours…Nous ressusciterons encore et encore…

 (常に笑うがいい、我ら幾度でも蘇る)

Ne perdez pas votre ambition…C'est digne de toi……

 (野望を見失うな、汝にはそれが相応しい)


────────────────────



 謎の呪文が洞窟内を響き渡る

 その反響音は場末のスナックで長渕を熱唱する

 おじさんのカラオケを彷彿とさせた


 やがて銀河鉄道999の車掌みたいな顔のない人 (?) が

 洞窟の奥から深い緑のフードローブをまとって現れた



「 L……∀……M……U…… 」


「高橋留美子作品の主人公かしら♡」


「……何か……お探し……ですか……」


「ビューティフル・ドリーマー♡」


「……そのラムでは……ありません……」



 深い緑のフードローブは自らを魔導士と名乗った

 確かに見た目はFF5の黒魔道師を彷彿とさせる


 千代丸は簡単に事情を説明した

 すると魔導士は手にする杖で地面に文字を書き始めた

 

 ♪プル・プルル・プルルルル


 奇妙で軽快な音が聞こえたかと思えば

 地面の文字は少しずつ宙に浮かび

 洞窟の外へ飛んでいくのだった



「まあステキ、これは何の魔法かしら♡」


「……FAXです……」


「そ、そうなのね♡」



 FAX、まだ使ってるんだ……それはともかく

 次に魔導士は地面に図を描く、魔法陣だ

 千代丸の体が輝き、少しずつ消えていく



「先方に……事情は伝えています……」


「体が消えていくんですけど♡」


「ご安心を……転移魔法です……」


「どこへ飛ばされるの♡」


「イーオンの……ダンジョンです……そこで服を……」




 千代丸の体はラァ・ムーンのダンジョンから消えていった

 



 【筆者より皆様へ】


 読んで頂きありがとうございます

 社交辞令ではなく心から感謝しております


 二番目物【修羅能】は筆者なりに早筆させて頂きました

 三番目物【鬘能】はお休みをはさみつつ、ゆっくりと書かせてください


 自分にしか書けないような言語センスと展開で

 読んだことないような小説を書きたい、だから


 ボクの右手を知 【 自主規制 】

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