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風雲あかし城  作者: キャベツが主食の☆黒い安息日
二番目物【修羅能】
41/59

関西弁の少女 (?) 、再度応援要請する


 信濃守千代丸はガラケーが指定する駆除対象の出現地に到着した。


 大蔵海岸、無数のテトラポット。


 だが、そこには海洋性特殊外来生物の姿は見えず

 ただ仁王立ちするシスターが立っていた。


 瞳孔は開き、波に呼応するかのような荒い息遣い

 まるで獣

 飢えた野獣

 優雅で瀟洒な面影は無かった。 



「シー、ハー、シー、ハー……」



 足場の悪さを気にしながら

 千代丸は近づき剣を抜く

 


「ちょっと、アンタどうかしちゃってるわよ♡」



 獲物は優美であるほどハンターは狩猟意欲を燃やす

 だが、今のシスターは、野蛮で醜い

 あまりの変わりように前回のような高揚感は無い



「とっとと刻んで終わらせるわね♡」



 テトラポットの上をひょいひょいと飛びながら

 前進する千代丸

 シスターは目前のテトラポットを掴み……

 ……持ち上げた!



「がぎゃああああああああああああああああ!」



 力任せに投げつける!

 やや小型とはいえ、テトラポットを?



「ちょ、ちょ、ちょとおおおおおお♡」



 当たりはしない、当たりはしないが

 最悪の足場

 千代丸は粉砕されたテトラポットの破片を

 避けることしか出来ない



「む、無茶苦茶よ♡」



 シスターは移動しない

 再び目に付いたテトラポットを掴み、担ぎ、投げる!



「ぎゃうああああああああああああああああ!」



 テトラポットはテトラポットに衝突し粉砕する

 その破片は粉塵であり、巨大なコンクリートの塊もある

 さらに足場のテトラポットも崩れていく

 千代丸、ピンチではないが、手の打ちようもない



「ど、どうしろって言うのよ♡」



◇◇◇



 ♪ピロリピロリピロリ



 アーカシ・ウォンターナの崩壊した自宅前で、事後処理に当たる南木綾音のガラケーが鳴る。

 情報管理課からの発信だ。



「また緊急支援要請?」



────大蔵海岸ニテ魔人出現ナレド苦戦中、応援ヲ願フ



 千代丸が苦戦?

 どういうことだ?


 とはいえ魔人が苦戦するほどの相手、自分が応援に向かったところで何の役にも立たぬし、他の陸上漁師どもにも同じ要請が届いているだろう。


 そう考えガラケーを閉じた南木綾音の脳裏に浮かんだのは

 市役所の裏ベランダで剣舞に興じている千代丸の姿だった。



「クソが……」



 綾音は環境産業局の車両を拝借し、大蔵海岸へ向かった。



◇◇◇



 ダゴンッ!


 ダゴンッ!


 叩きつけられ粉砕したテトラポットの大きな塊

 シスターはそれを振り回し、投げる


 知性の欠片も見られないシスターの行動に

 千代丸はただ困惑するばかり


 このまま放置し避け続けても勝機はあった。

 必ず限界がきてシスターは力尽き、動けなくなる。

 足場の悪さに千代丸が転がり落ちる可能性もあるが……



「そんなみっともない負け方、できないわ♡」



 魔人の身体能力で何とかしのぐ。

 ここで南木綾音

 大蔵海岸に到着


 とはいえ

 飛び交うコンクリートの塊

 近づけない


 ひとまず距離をとり、状況を見る。



「あぐぎかおおおおおおおおおおおおおおお!」



 魔人シスター、新たにコンクリートの塊を投げる。

 粉砕されたテトラポットの破片とはいえ

 推定7.5トン

 人体を大きく上回る体積



「避けてばかりも、美しくないわね♡」



 千代丸、足を止める。





 武術の型とは、断じて美しさを競うものではない。

 だが、一定の条件下における、徹底した効率化を極めつくした動作の美しさは、もはや舞。


 千代丸は、舞った。



【 ゴージャス演舞:豪華剣斬 】



 千代丸によるネーミングセンスはともかく……


 千代丸は斬った

 コンクリートの塊を

 一刀両断したのだ



 物理法則を完全に狂わせる、剣舞



 それは魔人にしか行い得ない、剣の極み

 南木綾音、頬を一筋の涙が伝う。



「美しい……」



 千代丸の性格や容姿を嫌悪するほどに

 彼が舞う「武」の美しさが際立つ

 人としては近寄りたくないが

 武人として魅せられてしまう


 綾音が呆然とする一瞬の間


 千代丸は距離を詰める

 シスターを斬るために



 死の圏内



 千代丸、袈裟懸けに斬り込む

 シスター、寸前で回避に成功


 だが、剣聖・千代丸から逃れること叶わず


 千代丸、返す刀で下段から突く

 シスター、胴体に刀が貫通する



 足元のテトラポットに瀬戸内海の波飛沫 (なみしぶき)

 その上にて舞い散るはシスターの血飛沫 (ちしぶき)



 勝負あり



 シスターと千代丸


 二人を後ろから抱きかかえる



 も う 一 人 の シ ス ター





「ギハハハハハハハハハハハハハ!」



 テトラポットの影から現れた

 もう一人のシスター

 同じ顔

 同じ声

 同じ修道服

 彼女は爆笑しながら二人を抱え込む



「お久しぶり、千代丸さま」



 新たなシスターは蠱惑の表情で二人を、主に千代丸を締め上げる。

 予想だにしない状況に、千代丸は叫ぶ。



「ど、ど、どういうことなのよ♡」


「さあ、三人で愛し合いましょ」


「は、はなしてぇ! 女はイヤなの♡」



 新たな、いや、以前教会にいたと思われるシスターが、血を吐く同じ容姿のシスターと千代丸を抱えたまま海に飛び込んだ。


 最後の一体と思われる海洋性特殊外来生物が、海面で待ち構えている。



「ち、千代丸!」



 南木綾音、呼びかけるも三人は明石の海へ沈んでいった。



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