関西弁の少女 (?) 、再度応援要請する
信濃守千代丸はガラケーが指定する駆除対象の出現地に到着した。
大蔵海岸、無数のテトラポット。
だが、そこには海洋性特殊外来生物の姿は見えず
ただ仁王立ちするシスターが立っていた。
瞳孔は開き、波に呼応するかのような荒い息遣い
まるで獣
飢えた野獣
優雅で瀟洒な面影は無かった。
「シー、ハー、シー、ハー……」
足場の悪さを気にしながら
千代丸は近づき剣を抜く
「ちょっと、アンタどうかしちゃってるわよ♡」
獲物は優美であるほどハンターは狩猟意欲を燃やす
だが、今のシスターは、野蛮で醜い
あまりの変わりように前回のような高揚感は無い
「とっとと刻んで終わらせるわね♡」
テトラポットの上をひょいひょいと飛びながら
前進する千代丸
シスターは目前のテトラポットを掴み……
……持ち上げた!
「がぎゃああああああああああああああああ!」
力任せに投げつける!
やや小型とはいえ、テトラポットを?
「ちょ、ちょ、ちょとおおおおおお♡」
当たりはしない、当たりはしないが
最悪の足場
千代丸は粉砕されたテトラポットの破片を
避けることしか出来ない
「む、無茶苦茶よ♡」
シスターは移動しない
再び目に付いたテトラポットを掴み、担ぎ、投げる!
「ぎゃうああああああああああああああああ!」
テトラポットはテトラポットに衝突し粉砕する
その破片は粉塵であり、巨大なコンクリートの塊もある
さらに足場のテトラポットも崩れていく
千代丸、ピンチではないが、手の打ちようもない
「ど、どうしろって言うのよ♡」
◇◇◇
♪ピロリピロリピロリ
アーカシ・ウォンターナの崩壊した自宅前で、事後処理に当たる南木綾音のガラケーが鳴る。
情報管理課からの発信だ。
「また緊急支援要請?」
────大蔵海岸ニテ魔人出現ナレド苦戦中、応援ヲ願フ
千代丸が苦戦?
どういうことだ?
とはいえ魔人が苦戦するほどの相手、自分が応援に向かったところで何の役にも立たぬし、他の陸上漁師どもにも同じ要請が届いているだろう。
そう考えガラケーを閉じた南木綾音の脳裏に浮かんだのは
市役所の裏ベランダで剣舞に興じている千代丸の姿だった。
「クソが……」
綾音は環境産業局の車両を拝借し、大蔵海岸へ向かった。
◇◇◇
ダゴンッ!
ダゴンッ!
叩きつけられ粉砕したテトラポットの大きな塊
シスターはそれを振り回し、投げる
知性の欠片も見られないシスターの行動に
千代丸はただ困惑するばかり
このまま放置し避け続けても勝機はあった。
必ず限界がきてシスターは力尽き、動けなくなる。
足場の悪さに千代丸が転がり落ちる可能性もあるが……
「そんなみっともない負け方、できないわ♡」
魔人の身体能力で何とかしのぐ。
ここで南木綾音
大蔵海岸に到着
とはいえ
飛び交うコンクリートの塊
近づけない
ひとまず距離をとり、状況を見る。
「あぐぎかおおおおおおおおおおおおおおお!」
魔人シスター、新たにコンクリートの塊を投げる。
粉砕されたテトラポットの破片とはいえ
推定7.5トン
人体を大きく上回る体積
「避けてばかりも、美しくないわね♡」
千代丸、足を止める。
武術の型とは、断じて美しさを競うものではない。
だが、一定の条件下における、徹底した効率化を極めつくした動作の美しさは、もはや舞。
千代丸は、舞った。
【 ゴージャス演舞:豪華剣斬 】
千代丸によるネーミングセンスはともかく……
千代丸は斬った
コンクリートの塊を
一刀両断したのだ
物理法則を完全に狂わせる、剣舞
それは魔人にしか行い得ない、剣の極み
南木綾音、頬を一筋の涙が伝う。
「美しい……」
千代丸の性格や容姿を嫌悪するほどに
彼が舞う「武」の美しさが際立つ
人としては近寄りたくないが
武人として魅せられてしまう
綾音が呆然とする一瞬の間
千代丸は距離を詰める
シスターを斬るために
死の圏内
千代丸、袈裟懸けに斬り込む
シスター、寸前で回避に成功
だが、剣聖・千代丸から逃れること叶わず
千代丸、返す刀で下段から突く
シスター、胴体に刀が貫通する
足元のテトラポットに瀬戸内海の波飛沫 (なみしぶき)
その上にて舞い散るはシスターの血飛沫 (ちしぶき)
勝負あり
シスターと千代丸
二人を後ろから抱きかかえる
も う 一 人 の シ ス ター
「ギハハハハハハハハハハハハハ!」
テトラポットの影から現れた
もう一人のシスター
同じ顔
同じ声
同じ修道服
彼女は爆笑しながら二人を抱え込む
「お久しぶり、千代丸さま」
新たなシスターは蠱惑の表情で二人を、主に千代丸を締め上げる。
予想だにしない状況に、千代丸は叫ぶ。
「ど、ど、どういうことなのよ♡」
「さあ、三人で愛し合いましょ」
「は、はなしてぇ! 女はイヤなの♡」
新たな、いや、以前教会にいたと思われるシスターが、血を吐く同じ容姿のシスターと千代丸を抱えたまま海に飛び込んだ。
最後の一体と思われる海洋性特殊外来生物が、海面で待ち構えている。
「ち、千代丸!」
南木綾音、呼びかけるも三人は明石の海へ沈んでいった。




