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風雲あかし城  作者: キャベツが主食の☆黒い安息日
二番目物【修羅能】
36/59

関西弁の少女 (?) 、警告を受信する


 天草レイコはシスターである。



 彼女は「人生の意義」について常に考えていた。

 「人としての幸福」と言い換えてもよいだろう。


 幼少より修道女として育てられた彼女は、

 自らが所属する教団および宗教の存在を

 「幸福になる方法を探求すると自称する集団」であると認識し、

 神を「幸福になるための行動を制限する秩序の擬人化」であると定義した。


 彼女は思う。


「神などいない、つまり幸福になるための行動制限は不要である」



 それは教団の不正を知ったときからか。

 それは戦地で飢えた浮浪児を見たときからか。


 いや、天草レイコは初めから、そういうモノだ。


 魔人なのだから。



 彼女は「幸福」を、脳内で分泌される物質による反応であると考えた。


 南米の教会へ赴任した彼女は、表向きシスターとして、裏では麻薬と暴力の頂点に君臨した。


 だが、彼女は自分自身が幸福感を得るための麻薬にしか興味はなく、金儲けや地位向上に関心が無かった。

 そのため、地元の大きな麻薬組織と抗争を起こすようなことは少なかった。


 あったとしても、一夜でその組織は構成員が全滅し、表沙汰にならない。





 シスターと懇意にしていた組織のトップが、危篤状態にあるという。


 強烈な中毒性を持つ麻薬を精製・開発してきた老舗の組織で

 新作が出るたびにシスターは融通してもらってきた。

 今後も関係を継続してもらうため、彼女は見舞いに足を運ぶ。


 それは街だった。


 個人宅なのだが、ゴルフ場や温水プール、プライベートビーチ、来客用ホテル、イベント会場……


 護衛が立ち並ぶヘリポートに降り立つシスター。

 彼女には手土産があった。

 危篤状態のトップと敵対していた組織から、新開発の麻薬を奪ってきたのだ。

 オマケとして、その組織を壊滅させた。


 死ぬ前に現時点で最高の麻薬を味あわせてあげよう

 そう考えたシスターの慈悲だった。


 まあ、これを複製しろという暗黙のプレッシャーでもあるのだが。


 病室と言う名目の豪華な部屋に入る。

 そこで伏していた組織のトップは、シスターを見るなり縋りついた。



「なあ、お願いだ、金はやる、組織もやる、あと一年、いや、あと一か月、生かしてくれ」



 シスターは困惑した。

 彼は必死なのだ。

 全てを引き換えに、わずかな日数でも、生きたいのだ。


 それをシスターに懇願した所で無意味なのがわからないほど朦朧したのか。

 あるいは人知を超えた存在である彼女に何らかの可能性を期待したのか。


 魔人である自分と同じく多くの人々を踏みにじって生きてきた男。

 それが全てを忘れさせる最高の快楽に目もくれず……



 明日を、生きたいと懇願するのだ。



 「人生の意義」とは

 「幸福」とは



 麻薬による快楽など、所詮は刺激であり幸福「感」に過ぎない。

 絵に描いた料理を見て食べた気分を味わう「錯覚」だったのだ。



「ありがとう、私は目が覚めました」



 シスターは組織のトップの首に手を添え、優しく折った。

 彼女なりの礼だった。


 一斉にライフルを構える護衛を次々と始末し、広く豪華な病室を悍ましい現代アートに塗りかえたシスターは、貴重品を奪えるだけ奪うと、南米を後にした。


 巨大な麻薬カルテル、南米でも有数の組織フェルナンデス一家は壊滅した。


 しかし彼女は「人生の意義」を教えてくれた感謝と敬意をもって、自らの名に「フェルナンデス」を加えることにしたのだった。





 奪い取った貴重品の中には、稀覯 (きこう) 本があった。

 稀覯本とは数少ない貴重な本のことで、売れば金になる。


 だがシスターは、一応目を通した。


 

「凍てつく荒野のカダス……大いなる種族……円錐体生物……」



 表紙は削られ抜け落ちたページも多いが、彼女は夢中になって読んだ。

 その稀覯本には、神の眷属を産む方法が記されている。

 そして神が眠る具体的な位置も。

 

 日本、兵庫県、明石の南、瀬戸内海の底

 北緯3■度■6分3■秒、東経13■度5■分■3秒



 シスターは稀覯本に記載された内容を、可能な限り実行した。


 幾つかの記載ミスや、入手困難な貴重品、多くの犠牲者は必要としたものの、その多くは成功し奇跡と呼べる成果をもたらした。


 彼女は実験に没頭していく。

 そして考えるのだった。


 神は実在した。

 今は眠りについている。

 ならば海の底から現世に引きずり出してやろう。


 神を暴き、冒涜する。


 ああ、楽しい、なんて刺激的でロマンチックなのかしら!




 何かに没頭する時間こそが「幸福」であり

 それを求め彷徨うことが「人生の意義」であるとするならば

 必死で生を求めた男が、麻薬や豪華な生活では満たせなかった「幸福」を、シスターは堪能していた。



◇◇◇



 琥珀 紗音 (こはく しゃのん) は能力者である。


 彼は三十路を過ぎても女装が止めらられない異常な成人男性だと思われがちだが、その実態は闇の貴公子であり、白銀の巫女でもあるのだ。



「次回作 TSものとか 描こうかな……」



 琥珀 紗音、いや「紅い燈火」は公務員にして同人作家。

 ネットで検索しても名前は出ないし作品もコピー本の合同誌で寄稿させてもらった程度だが、それでも気持ちは大作家である。



「今宵また ボクの右目が 疼いてる」



 彼の右目は異世界とリンクしており、それが溢れ出さないよう眼帯で押さえている、らしい。

 なお先月の健康診断では両目とも視力1.7、まだまだメガネは必要なさそうだ。


 

 さて彼の能力だが、自炊や洗濯、裁縫にアイロンがけと地味に多く、他にも原付バイクのシート張替えや自動車のユーザー車検など日常の役に立つものも多い。


 今は自宅の風呂場で某魔法薬 (バスマジックリン) を使用し、魔法の杖 (スティック) で浄化魔術を展開中である。

 なお、魔法の杖 (スティック) は超おススメ、スポンジで腰をかがめゴシゴシしなくて済むのでマジ楽ちん。

 使い終わったらベランダで乾燥して物置へ、風呂場に置くと地味に邪魔……




  ばちん。




「あぎいいいいいいいいいいい!」



 琥珀 紗音、右目を押さえ絶叫。

 激痛。

 神経の多い目の痛みは耐え難い。

 悶絶。


 色々と虚言が混ざる琥珀紗音ではあるが、右目が異界と接続されているのは事実である。

 その際は、疼くどころか激痛が走る。

 その痛みは、筆舌に尽くしがたい。



「あ、ああ、あああああああ!」



 七転八倒する琥珀紗音、彼の中にある「女」が、異界から警告を発した。



「気い付けや そっちで何か 起きますえ」



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拙者、耶蘇尼が大好物に御座る♡  ……尼崎?
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