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風雲あかし城  作者: キャベツが主食の☆黒い安息日
二番目物【修羅能】
34/59

関西弁のお姫さま、復帰する


 蝶と「蛾」の違いをご存知だろうか。


 触角の形状で区分されることはあるが、実は明確な違いはない。

 分類学上は同じチョウ目 (鱗翅目) の昆虫である。



 夜に飛んでいるのは「蛾」ではないかと疑問を持つ方もおられよう



 だが繁華街、あるいは飲み屋で飛び交うのは夜の蝶

 今夜も客のボトルをキープしている


 ……冗談はさておき、アナタの頭上を飛んでいる「蛾」。


 それは本当に、生きている「蛾」なのか?


 明石市内を飛び交う無数の「蛾」。

 今宵、危機に陥る教会内部の天井を飛ぶ「蛾」の一つが「役目」を終え、小さく燃えて灰となる。



◇◇◇



 手持ちの術符を使い果たした唐櫃 (からと) の忍び五人衆。

 一名は天井に叩きつけられ生死不明。

 残る四名のうち、一名が南木綾音を抱きかかえている。



 前方には瀟洒な魔人、怪力のシスター。

 取り囲む無数の海洋性特殊外来生物。

 唐櫃衆、背を寄せ合い呟き合う。



「……無念、ここまでか」


「……されど、綾音どのだけは何としても」


「……願わくば市長どのにも詫びたい所よ」


「……各々方 (おのおのがた) 、捨奸じゃ」



(注釈:「捨奸」すてがまり。全体が犠牲となって戦地へ踏み留まり、極少数の脱出を狙う地獄の戦術。関ヶ原にて島津軍が実行、君主・島津義弘を逃がすも74%の兵が戦場の露と消えた)



 とはいえ、難しかろう。

 それでも、成せばならん。

 命ならば、くれてやる。

 だが、南木綾音への恩義だけは、ここで朽ちさせぬ。



 決死の唐櫃衆、礼拝堂の入り口を見る。

 あそこまで辿り着けるのか。


 暗闇の向こう側……こちらに迫る、光?


 それはとてつもない速さで近付き、ついには礼拝堂に飛び込んできた。



────鋼鉄の疾風。



 海洋性特殊外来生物をなぎ倒し、それは現れた。

 礼拝堂を満たす重低音

 漆黒のオートバイ

 異様に太い後輪タイヤ


 跨 (またが) る金髪の女が前輪をロック、アクセルを回す

 空転する後輪から焦げた匂いと白煙が舞う。



「特製のタイヤや、明石名物タイヤ焼や! 」



 金髪の女、礼拝堂でバイクをターン

 次々と海洋性特殊外来生物を後輪タイヤで粉砕

 特殊な術が仕込まれているらしい


 見れば藤江の海岸で救出した陸上漁師、たしか王族の女。

 ここで助太刀とは、ありがたやッ!!!



「ピレリより値が張る特製タイヤや、とくと味わえ!」



 明石市と公安、そして自衛隊の要請により

 川崎重工明石工場で開発された陸上漁師専用自動二輪車

 

────WILD ANTHEM " MUV-MUV " (モフモフ)


 海洋性特殊外来生物の駆除を目的とした設計がされており

 疑似・巫覡発勁 (ふげきはっけい) の発動が可能

 後輪に真言が刻まれ、消耗は激しいが術符としての役割を持つ



 200kgは超える重量のバイクを室内で回すアーカシ・ウォンターナ

 蹴散らされ数を減らす海洋性特殊外来生物


 全ては一瞬の出来事で、情報量の多さに誰もが戸惑った。




「あんたら、今のうちやッ! はよ逃げッ!」


「……かたじけない!」


「かめへん、こないだの礼や……んなッ?」



 魔人シスター、MUV-MUVを片手で掴みアーカシ姫ごと持ち上げた。


 200kgはある二輪車を、搭乗者ごと片手で?


 そして中央へ叩きつける

 説教壇が衝撃で弾け飛んだ。

 シスターは笑顔でアーカシ姫に問いかける。



「迷えるお姫さま、今宵は主に何をお求めですか?」



 MUV-MUVが盾となりダメージは少ないアーカシ姫

 立ちあがり半身で構える。



「シスター、あんた名前は?」



 気配もなくシスターはアーカシ姫の数センチ前に立つ。

 数メートルは離れていたはずだが……

 あまりの速度に見えなかったのだ。

 呆気にとられる姫を前にカーテシー。



「レイコ・天草・フェルナンデスと申します、お見知りおきを」



 にこりと微笑み

 軽くボディブロー

 アーカシ姫は数メートル浮き上がり

 その後床に落ち悶絶。



「がはぁ!」



 南木綾音を抱いた忍び、脱出。

 倒れた一名も抱えられ、救出。

 二名の唐櫃衆が礼拝堂に残り、アーカシ姫とシスターの間に入る。



「あら、ご一緒に逃げればよろしいのに」


「……恩人を置いて逃げはせぬ!」


「無駄ですし、むしろ邪魔では?」


「……承知、此処を死に場所と心得たり」


「あらステキ、ではお望み通り……」



 この手にキスを、と言わんばかりの優雅な手つきでシスターは忍びの頬に触れた。

 唐櫃の忍び、目を閉じる。


 我が身命をもって時を稼ぎ、

 アーカシ姫君に回復の時間を……



「おい……待てや……」



 アーカシ姫が、うずくまったままシスターの足を掴む。

 絞り出す声で、シスターに告白する。



「アンタにはな……うちでは勝てんこと……知ってたんや……」



 知ってた?


 その一言はシスターの気を引くことに成功した。

 アーカシ姫は、さらに続ける。



「見てたんや……見られてたんや……」


「誰が? 何をどうやって見ていたというのですか?」


「うちは……時間稼ぎや……」


「何の話ですか、さっぱりわかりません」


「お前みたいな奴には…………」


「だから、何の話をしているんです、わかるように話して頂戴」


「お前みたいな奴を、ぶつけるんやて……」




 アンバー・ムスクの香水が漂う。


 その香りの原因が

 自分自身を棚に上げ


 悪態をつきながら礼拝堂に入ってきた。



 

「やあねえ、ここ、魚臭いわ♡」




 南木綾音の要請もあり、情報管理課は式神「蛾」を飛ばし続けていた。

 そして礼拝堂での状況をモニタリングし分析


 (他称) シスターを「魔人」と判定。


 同じく「魔人」である信濃守 千代丸 (しなののかみ ちよまる)

 による討伐を政策局に要請。


 アーカシ姫とMUV-MUVは、千代丸到着までの時間稼ぎだった。



 魔人には魔人。



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― 新着の感想 ―
(。•̀ᴗ-)b✧<おかえり!モフモフ! ( ಠ益ಠ)p<…あ、姫様もお帰りなさいませ!←マテ 魔人つおすぎなんですけど…(;・∀・)
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