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風雲あかし城  作者: キャベツが主食の☆黒い安息日
一番目物【脇能】
3/59

貴族令嬢、ダンジョンに入る


「 貴 族 ス ペ シ ャ ル 」


 貴族令嬢探検シリーズ・ダンジョン編


恐怖!ダンジョンを支配する謎の魔導士を追え!



◇◇◇



 貴族令嬢が洞窟に入る。

 メイドさんと、執事さんが、後から入る。


 ……ゴメン、嘘。


 貴族令嬢・黒い安息日はひとりで深夜のダンジョンに入った。愛馬アードレスは広大な預かり場で、主の帰りを待っている。さすがに昼間ほどではないが、深夜にもかかわらずラァ・ムーンのダンジョンは冒険者がそれなりに入っている。



「上から来るぞ、気を付けろ!」


「なんだ、この階段は!」


「せっかくだから、俺はこの赤のトビラを選ぶぜ!」



 ダンジョンの奥から冒険者の声が聞こえる。しかし、全て同一人物の声に聞こえるのは気のせいだろうか。魔法による何らかのデバフがかかっているのかもしれない。パーティを混乱させる魔法「デス・クリムゾン」とでも名付けよう。


 このダンジョンは珍しいことに、反時計回りのレイアウトになっている。通常のダンジョンは時計回りで、入り口近くに野菜や果物 → お肉や魚 → 卵や牛乳 → レジの近くにパンやお惣菜、という流れでアイテムが配置されている。たしか別のラァ・ムーンでは時計回りだったので、ここだけなのかもしれない。



 ダンジョンの奥へ向かう貴族令嬢・黒い安息日。慎重に進む彼女だったが、危険な魔物が次々と襲いかかる。



 [りんご1袋 (4個) 399円]

 [うなぎ蒲焼 998円]

 [国産納豆 79円]

 [牛豚ミンチ100g 88円]



「ぐぐぐ……安い、安いですわ……」



 貴族令嬢とはいえ黒い安息日は苦戦していた。[うどん一玉17円]など品質を考えると敵ではないが、納豆は買ってしまった。ミンチは何度か買ったことあるが、当たり外れがでかい。脂だらけでガッカリしたことがある。


 お弁当は買ったことがないので味はわからないが、ボリュームと値段は驚異的。企業、いやダンジョン努力の結晶だろう。お惣菜も豊富で安く味も及第点。ときどき大好物のおからやヒジキを、ここで手に入れている。



 その時だった。


 ダンジョン内の空気が変わる。

 温度は変わらないのに感じる寒気。

 魔素濃度の上昇、トラップによる召喚魔法。

 ……しまった、安易に奥へ進み過ぎたか。



────────────────────


Rire toujours…Nous ressusciterons encore et encore…

 (常に笑うがいい、我ら幾度でも蘇る)

Ne perdez pas votre ambition…C'est digne de toi……

 (野望を見失うな、汝にはそれが相応しい)


────────────────────



 空間によるリバーブのかかった呪文詠唱……

 仕掛けられた魔法陣が輝き、転移された魔導士が姿を現わす。

 深い緑のフードローブ、ダンジョンを作ったとされる秘密教団の一員だろうか。

 残響に残る呪文をかき消すように、魔導士は呟いた。



 「 L……∀……M……U…… 」



 それは彼の名か、それともダンジョンの名か、そもそも彼なのか、彼女なのか。

 その虚ろな顔は、深いコートの闇の中……

 しばしの沈黙の後、魔導士は細く、たどたどしい声で問う。



「……何を……お探し……ですか……」



 黒い安息日は答える。



「ぶ、豚肉のブロックを探してますの」



 魔導士は分岐したダンジョンの一角を指さす。



「精肉は……あちらに……」



 普通に親切な魔導士だった。黒い安息日はカーテシーで礼をして、教えてもらった先へ向かう。



◇◇◇



 魔導士が教えてくれた先に、黒い安息日が探していた豚のブロック肉はあった。心配になったのか、魔導士も後から付いてきた。どれを選ぶか悩む黒い安息日に、魔導士は助言する。



「どの品もとにかく安い……安い……どうぞ比べて見て下さい……」


「悩むわ、どれが焼豚に向いているのかしら」


「地域のお客様の……豊かな暮らしをサポート……」


「適度な脂身と肉質、この肩ロースなんてどうかしら」


「この街一番……地域で一番……安くて……便利で……お得なメガディスカウント……」



 安い安いと繰り返す店内放送のような魔導士はともかく、黒い安息日は焼豚にするブロック肉を決めた。高い肉が美味しいのは当たり前、ゆえにあえての最安値、100g 99円の肩ロース。まずは錬金の基本、素材の状態変化だ。


 歴史は浅いが用途は広い、ジップロックを用意。別にアイラップでもかまわないが、漬け込むので慣れた道具を使いたい。



・醤油  100cc

・みりん 100cc

・焼酎  100cc

・蜂蜜  大さじ3杯

・長ネギ 一本

・生姜チューブ適量

・ニンニクチューブ適量



 生姜は普段すりおろしを冷凍保存しているが、切らしていたのでチューブで代用。ニンニクは手間の割に量が少なく、面倒になったので普段からチューブを使用している。さあ、漬け込んで錬金だ。



「……お待ちを」



 魔導士が助言する。



「……下味を沁み込ますため……お肉に穴をあけた方が良いのでは……」



 それもそうだ、しかし道具がない。こうなれば魔法で道具を召喚するしかなさそうだ。黒い安息日は呪文の詠唱をはじめた。



────────────────────


 リングス・プライド・パンクラス……

 ハッポ―・ツキテイ・ナナヒカリ……デイ・ソウ!


────────────────────




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― 新着の感想 ―
焼豚自分で作ると、好きな厚さに切れるし好きなだけ食べれるからいいですよね♪ 僕は豚バラでたまに作ります(*^^*)
貴族令嬢丼と行け!
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