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風雲あかし城  作者: キャベツが主食の☆黒い安息日
一番目物【脇能】
24/59

貴族令嬢、アーカシ市長と謁見する



「その方、面を上げい」



 貴族令嬢・黒い安息日は「あかし城」謁見の間にいた。

 新たな名物の進捗状況について、アーカシ市長と側近に報告するためだ。



「お……恐れ多くて……」



 黒い安息日は頑なに顔を上げない。

 アーカシ市長を視野に入れないよう、下を向いたままだ。



 ずず……


 ずずず……


 ずずずず……



 アーカシ市長が近づいてくる。

 あるいは、伸びている?


 アーカシ市長の悍ましい触手が黒い安息日に触れる。

 アーカシ市長の悍ましい叫びが黒い安息日の耳を突く。



「●★▲◆§★■◆●Θ▼◆§★■◆!」



 頭が、頭がはち切れそうだ。

 心が、心が砕けてしまう。

 黒い安息日は意識を失った。



◇◇◇



 明石市。

 マンションの一室。

 女が伏している。


 泣いていた。


 辛いことがあったらしい。

 我慢するしかなかったらしい。

 頼る人はいないらしい。

 誰にも話すことが出来ないらしい。


 ただ泣いて、泣き疲れて、そのまま眠りについた。


 寝息を立てる彼女の肩を、そっと触れるものがいた。

 おとぎ話に出てくるような、貴族令嬢の姿。

 眠る女が慰めに書く小説の、主人公そのものだった。



 それは、実在した。

 それは、実在してしまった。

 それは、実在する明石市で、実体を持ってしまった。


 女が目覚めないよう、貴族令嬢は魔法をかけた。

 女が目覚めない限り、貴族令嬢は実在し続ける。


 泣き伏せる哀れな女に、永遠の眠りを。

 泣き伏せる哀れな女に、黒い安息の日々を。



◇◇◇



 黒い安息日は目を覚ます。


 ダメだ、絶対にダメだ。


 私は絶対に、アーカシ市長を見てはいけない。


 視野に入れてはいけない。

 存在を認めてはいけない。


 あれは世界の歪み。

 あれは矛盾。

 あれは嘘。


 あれを私が認めない限り、世界は存続する。

 あれを私が認めた時点で、世界は崩壊する。


 あれは私の……

 私の世界の……

 私自身の……ドッペルゲンガーなのだから。



「●★の◆§には◆●黒▼■◆は明石§★■◆!」



 少しずつ理解し始めるアーカシ市長の言葉。

 ……まずい。



「き、気分がすぐれないので失礼します、ホホホ……」



 黒い安息日は口元を押さえ、謁見の間を退いた。

 ここは爺やとお友達のいる現実世界。

 明るく楽しく冒険に満ちた美しい世界。

 失うわけにはいかない。

 辛く孤独な異世界になど、戻りたくない。



 大きな矛盾を成立させるために必要な、嘘。



 その矛盾が大きくなれば、嘘も大きくなる。

 やがて嘘は分裂し、増殖し、侵攻し……

 この現実世界を崩壊させるのだろう。


 それでも、それでも異世界には帰りたくない。

 あんな悲しい、悲しい世界では生きられない。

 だからせめて、せめてこの世界が崩壊するその日まで……



◇◇◇



「痛ッ!」



 白い定休日こと白音 (しろね) の君は、謁見の間を陰陽の術でモニタリングしていた。


 それがアーカシ市長の気に障ったらしく、黒い安息日が席を外したタイミングで市長の式神返しを喰らった。

 右目に痛みが走り、血涙が滴り落ちる。



「あ痛たたた 市長はご機嫌 斜めかな」



 意外にもアーカシ市長は寛容と言うか大雑把で、自身が観察されようが頭上を式神が飛ぼうが意に介さない。

 だが今日は違うらしい。

 不穏な雰囲気を白音 (しろね) の君は感じ取った。



「こりゃ何か 面倒な事が 起きますえ」



 白音 (しろね) の君

 しばし考え下の句をつなぐ



「あちらの世界で 何かあるかも……」




◇◇◇



 謁見の間では市の職員が数人で、アーカシ市長が立ち去った後の粘液をモップで清掃していた。

 彼ら側近はアーカシ市長の眷属であり、人の心よりもアーカシ市長の意思と感情に強く共鳴する。


 側近は感じていた。


 今日のアーカシ市長、少し寂しそうだった、と。



◇◇◇



風雲あかし城


一番目物【脇能】




かぐつち・マナぱ 様よりAIイラストを頂きました


挿絵(By みてみん)


美しく悲しいシーンを形にして頂き光栄です

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― 新着の感想 ―
まさかのリアルと異世界が…今までのが全て伏線だったのですね!?(≧▽≦) https://42725.mitemin.net/i1041142/ <i1041142|42725> 感想|(;・∀・…
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