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風雲あかし城  作者: キャベツが主食の☆黒い安息日
一番目物【脇能】
17/59

貴族令嬢、食べ歩きに行く



 この話は、人から聞いた内容を元にしています。



 私の知人でBという人がいます。Bは釣りが好きな人で、アーカシ市役所職員として働いています。BにはAという同期の市職員がいて、同じ高校だったらしく連絡を取り合うこともあったそうです。


 Aは総務局職員室 (人事課) という部署で働いていたのですが、市職員の労務管理をする中で矛盾点を見つけました。


 それはアーカシ市役所職員の離職率です。

 極端に高く、多くの退職者が出ています。

 しかし不可解なことに、職員の総数は増えているのです。


 辻褄の合わない状態に気付いたAは、上司に報告しました。

 するとAに急な辞令が出て環境産業局へ異動となりました。


 Aは不信感を抱き、退職願いを出しました。

 でも急に辞められては困る、3ヶ月待つように、と言われたそうです。

 その間にBとも会い相談をしています。

 これはその相談を受けた数日後の話です。





 休日だったのでBは海岸へ釣りに行きました。

 そこでたまたまAを見かけたそうです。


 Aは船着き場で市の環境調査船に乗り込む所でした。

 Bは休日なのに大変だなと同情しましたが、もしかしたら辞めようとする職員に対し嫌がらせの意味もあるのかなと邪推したりもしました。


 Aを乗せた調査船は明石海峡の水質調査という名目でしたが、船は明石どころか淡路からも遠い沖に出ました。


 そこは晴れた昼間にもかかわらず、どんよりとした不気味な場所でした。それでも徳島までは来ていないはずでしたが、大きな渦潮が見えました。調査船は、その渦潮に吸い込まれるように進んでいます。


 危険を感じたAが救命胴衣を手に操舵室に行きましたが、みんな無言で渦潮の中心を見ていたそうです。


 Aは見ました。渦潮の中心に■■■■の■を。





 Bは調査船が帰ってくるところを待っていました。

 Aがいたら声をかけようと思っていたのです。


 調査船が帰ってきました。 

 数人の調査員が船を降りていきます。

 その中にAの姿がありました。


 Bは声をかけようと近寄りましたが、寸前で足が止まりました。



 Aの後ろに



 Aがいたのです



 Aが二人いるのです



 二人のAはニヤニヤと笑いながら



 船を降りていきます



 Bは逃げました



 次の日、Bは退職願いを出しました





 それからBはどうなったかって?



 さあねえ……



 たぶんBも「増えてる」んじゃないかな?



 だって、知っちゃったからね




 あんたもそろそろ、迎えが来るよ



 だってこの話、聞いちゃったんだしさ



 あんただって見たいだろ?



 渦潮の中心にある、■ル■エの■を。











◇◇◇



 MH77A 学天則は黒い安息日に提案する。



「私はアーカシ市内での食べ歩きにおいて、貴族令嬢・黒い安息日の応援を要請します、友好関係にある勢力と同席して食事すれば相互の多幸感が上昇します」


「あら、お店は決めているのかしら?ホーホホホ!」



「はい、YouTubeで情報収集しました、優良なチャンネルで食べ歩き攻略拠点の候補を検出しています」


「あら、なんてチャンネル?海鮮だとTOMIKKU NET、麺類だとSUSURU TV.かしら?」



「いまいマイケルズ激辛ぶらり食べ歩き、です」


「おい、ふざけんな!」



「ユニークな冗談です、本心はコスプレ女忍者から紹介された、林崎近隣にあるアンティークな食堂の攻略を希望しています」



 それなら有馬翔子も誘おうということで、三人は集まりアーカシ市林崎方面へ向かった。


 なお、「いまいマイケルズ」の紹介する店は、ギネス級に辛い唐辛子をドバドバ使う超上級者向け。筆者程度の激辛好きでは絶対食べきれない。でもめっちゃ美味しそう……


 あと、明石専門のおいしいお店紹介チャンネルは、最近だと「明石在住」が熱い。地元の超ローカルな店を紹介してて嬉しい。朝霧のタイ料理屋さんとか最高やん。





 その店は林崎の「ひできよラーメン」より少し離れた海岸沿いにあった。正確には林崎ではない。そもそもここは何処なんだ?人気は無く民家もまばらで怪しい霧が立ち込めている。



「ええと、ああ……ここっす!間違いないっす!」



 有馬翔子が店名を確認する。古びた看板には【お食事処 あるあじふ】と書かれている。アンティークと言うより、昭和の残骸と表現すべき風格があった。



「白音 (しろね) の奴が、仲直りの印にって紹介してくれたんすよ!」



 それは本当に仲直りを目的とした紹介なのか?

 そこに一抹の不安を感じながら暖簾をくぐる。



「いらっせぇ」



 怪しい老婆が接客、三人はそれぞれ違うメニューを注文。

 程なくしてそれは提供された。



────────────────────


【マグロのみ丼】


 あるあじふ店主イチオシの一品。

 それはマグロのみで造られた海鮮丼だった。それは深淵なる海の真理だった。口にしてはならない。一口で正気を失い、二口で人の姿を留められなくなるだろう。しかし三口まで耐えるなら……。


 隠し味は極微量に加えられたヨーグルト=ソース。0.01mgを超えると死すら許されぬ彼らの支配地域へ飛ばされる。そこは外なる神々の住まう宇宙。マグロの脂が銀に輝く門の鍵……イア……イア……



────────────────────


【ナルト茶丼】


 鳴門巻きを細かく刻み、出汁の効いたお茶をかけた丼。ただし鳴門巻きは手作りで、良く練ったチャクラと魚肉のすり身を圧縮し回転させるため、影分身の術も使う必要がある。なお鳴門の模様は五芒星。


 お茶の出汁造りは繊細を極め、調理する者は写輪眼で調合を見極めなければならない。古代の地球を支配した旧支配者のひとつ「イースの偉大な種族」が作ったメニューだと言われてるってばよ。


 なお梅酢の風味が効いた「まこと茶丼」もおススメなのら~。グワシ!


────────────────────


【朝トースト】


 アサトーストと呼称されるモーニングセット。全てのメニューの根源であり最奥。沸騰し沸き立つバターがたっぷり塗りこまれ、カロリーも冒涜的。


 これを注文すると店内のBGMが、ぐぐもったフルートとオーボエ、野蛮な太鼓の連打に変わる。


────────────────────


【バカボンの書】


 これでいいのだ。お食事処・あるあじふ店内に置かれていた漫画なのだ。食堂やラーメン屋に置いてあるヨレヨレの漫画本は「ザ・シェフ」とか「ミナミの帝王」とかゴラク系作品が多いのだ。「白竜」も渋いのだ。大きなシノギの匂いがするのだ。


 あと元祖天才バカボンのエンディング曲は激渋なのだ。昭和ロマン歌謡なのだ。


────────────────────



 ……つかれた。

 食べ歩きと言いながら一件しか行ってないが、今日はもうたくさんだ。

 黒い安息日も有馬翔子もくたくたで、MH77A学天則も情報処理が追い付いていない。


 精神的な何かが大きく削られた気がする……




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― 新着の感想 ―
食べ歩きのメニューも実に個性的ですね。 ナルト茶丼に使われている鳴門巻きの魚肉にも、何らかの秘密がありそうです。 しかし、その秘密に深入りすると色々と危なそうですね。 下手したら「ああ!窓に!窓に!」…
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