貴族令嬢、電気猫の夢を見る
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新規情報収集中 ▮ 体性感覚野を外部接続
新規情報更新中 ▮ 並列前頭葉で状況分析
空間放射線量と傍受した電波の情報解析の結果
現在は加古川絶対衛拠点基準時刻で
2025/10/20 11:06
深刻なエラーと判断し再起動します
◇
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新規情報収集中 ▮ 体性感覚野を外部接続
新規情報更新中 ▮ 並列前頭葉で状況分析
空間放射線量と傍受した電波の情報解析の結果
現在は加古川絶対衛拠点基準時刻で
2025/10/20 11:07
深刻なエラーの可能性があります
緊急事態と判断し安全確保優先のため義体を起動します
情報収集と状況分析を並行しセーフモードで起動します
◇
位置特定
加古川絶対衛拠点より直線距離で19.78km
瀬戸内基準標高の特定不能
現在地の特定に深刻なエラー
商業施設と洞窟が重なり合った状態で同時に存在
コペンハーゲン解釈で説明できない状況と判断
左方理解系脳番地活動を保留
右方理解系脳番地活動を優先
引き続きセーフモードで情報収集と状況分析を継続
◇
辺境の蛮族に類似する生体反応が至近距離に接近
電磁波によるスキャンで構造解析……
蛮族あるいは戦前の人類・雌型二体
生体部品のみで推定最高出力は微弱
該当生物による義体の損壊は困難
情報収集活動を行っていると推測
コンタクトを試行
「中世の極東地域言語フォルダ」を展開
ふふふ、趣味でインストールした甲斐があった……
◇◇◇
「いや、触らないほうがいいっすよ」
有馬翔子は警戒していた。
今すぐ動きそうな人型のロボット、しかも怪しいコープ・コーベ・ダンジョンのお米が置かれている場所に埋もれているのだ。せっかくだから古古米が欲しいと黒い安息日にせがまれ、ダンジョンの奥へ入り込んだのが間違いだった。
「これは精米機に違いないわ、ホーホホホ!」
「そんなわけあるか!そもそも玄米置いてないっすよ!」
正確にはコープ・コーベ・ダンジョンにも玄米はある。しかしそれは精米を前提としない食べる玄米であって、田畑の真ん中やお米屋さんの近くで見るコイン精米機を必要としない。
それに人型の精米機など、聞いたことがない……
……動き出した。
それはゆっくりと立ち上がり、顔らしき部分を二人に向けた。
「せせせ精米機が動きましてよおおおおおお!」
「天家璃々!何奴!名を名乗れ!」
人型の機械は平和的コミュニケーションを模索した。
二体の雌型蛮族は警戒している。
彼は思考する。
まずは自身が交戦意思の無い事を伝え、円滑な情報交換を提案しよう。
そのためには自身が言語能力を有し、当時の極東における時代背景と価値観を共有できると理解してもらおう。
彼は知っている。
2025年当時は音声波形による情報送信を主として意思疎通を行っている。
彼は内蔵されたスピーカーから疑似声帯による音声を発した。
「おっはー!一緒にだんご三兄弟歌おうよ!」
「…………」
「…………」
体感温度の急速な低下を確認。
心理的要因によるものと推測。
状況を分析。
仮説1:時代背景のズレが生じた
仮説2:距離感を見誤った
判定 :失敗
可及的速やかな修正を必要とする
「……失礼しました。私は個体認識番号MH77A、交戦意思は無くお二人に危害を与える存在ではありません。」
有馬翔子が問う。
「いわゆるロボットっすか?」
「そのように理解して頂いても構いませんが、母体が生体で私は複製ですから、サイボーグと呼称する方が適切かもしれません」
「じゃあロボットっすね」
「サイボーグと呼称する方が適切です」
やたらとサイボーグであることを主張するMH77Aを、黒い安息日は無言で眺めていた。エスカルゴ学生時代、同じようなことを口にする同級生がいたのだ。
さすがにロボットだサイボーグだと言っていたわけではないが、同級生は霊が見える能力者だと言い張っていた。
卒業後、同窓会で会った彼女にそのことを聞くと、それから連絡が取れなくなった。着信も拒否、mixiもブロック。悪い霊にさらわれてないといいのだが……ちなみに一部実話である。
「じゃあ、愛称でお呼びするっていうのはどうかしら、ホーホホホ!」
黒い安息日が提案する。
「さすがは貴族令嬢、どこぞのコスプレ忍者と大違いです」
MH77Aも賛同する。
有馬翔子が提案する。
「じゃあロボット三太夫はどうっすか」
「MH77Aは意思に反し内蔵する兵装を暴発させる可能性を有します」
MH77Aは不服らしい。そもそもジャンプのマイナー漫画みたいな愛称では可哀そうすぎる。最後には相手に都合のいい特製リングが飛び出し、トーナメント制のバトル漫画となって打ち切られそうだ。なお、ゆで理論は愛している。創作に必要なのは勢い、統合性など二の次だ。AIには真似できまい!
愛称の決定は白熱した議論が重ねられた。常にロボットと呼ばせようとする有馬翔子。どこで知ったか銀英伝の名前を引用したがるMH77A。「精米の虎」など百獣戦隊ガオレンジャーのような名前を付けたがる黒い安息日で意見が分かれ、時間だけが費やされていった。
疲弊した二人 (MH77Aは疲れない) は妥協して結束し、「学天則」 (がくてんそく) という名を提案。なぜかMH77Aはそれを承諾した。
黒い安息日、有馬翔子、そして米を担いだMH77A学天則 はコープ・コーベ・ダンジョンを後にした。




