貴族令嬢、コープ・コーベに行く
人はなぜ争うのですか?
私はもう、争いたくないのです……
人は獣と争いました
最初は獣に襲われ
やがて獣を襲い
時には人を襲うため争いました
獣や人と争わず生きていくため
農業を始めました
米や麦などの農作物は保存ができるため
人は飢えなくなり、爆発的に数が増えました
農業は人手が必要です
保存した農作物の管理も必要です
みんなで管理する人を決め、ルールを定めました
やがて農作物を奪う集団が現れ
対抗するため武装する集団を結成し
数が多い方が有利なので集団は連携して
村となり、国となり、帝国となりました
(注釈:帝国とは国や異文化、異民族の共同体)
汗水流して働くよりも
集団を管理する人になった方が楽だし贅沢できました
だからみんな管理する人になろうとします
管理する人は交代したくないので武力で抵抗します
これが【封建社会】の始まりです
みんな不公平に怒りました
管理する人はそれを武力で抑え込みました
飢えて痩せた人々 (農民・労働者) は
肥えて鍛えて武器を持つ武装集団に歯向かえません
やりたい放題の管理する人ですが
集団を維持する手段として騎士道 (武士道)・宗教を大切にしました
科学が発展し、火薬そして銃が発明されました
銃は誰でも使えます
銃は誰でも倒せます
人々を武力で抑え込んでいた武装集団でさえも……
不公平を押し付けてきた管理する人は次々に討たれ
人々は自由を手に入れました
だから銃は自由の象徴なのです
だからアメリカは銃を手放さないのです
銃で平等と民主主義を実現したのですから
自由を手に入れた人々は、利益を追求しました
誰もが豊かな暮らしを求めました
そのために手段は選びません、なんせ自由ですから
人を騙して奴隷にしたり、戦争をして商売敵を潰したりしました
これが【資本主義】と呼ばれる新しい社会です
新しい社会の被害は【封建社会】を超えました
利益の追求が争いの根源だと考える人々が現れました
収入や生産を管理して、平等に分配しようとしました
これを【社会・共産主義】といいます
でも、汗水流して働くより
集団を管理する人になった方が楽だし贅沢できました
【封建社会】に戻ってますやん……
やがて【社会・共産主義】は自国民を弾圧し
膨大な犠牲者を出して崩壊していきました
人はなぜ争うのですか?
私はもう、争いたくないのです……
◇◇◇
【コープ・コーベのダンジョン】
利益追求の組織運営を放棄し、一般の冒険者 (お客さん) による共同出資で民主的な運営を行っている。いわゆる「生協」と呼ばれる組織形態で、理想的だが形骸化しやすく即応性にかけ弱点も多い。
お気づきの読者諸兄姉もおられよう、生協の運営形態は社会・共産主義が理想とする組織構造に近い。
むろんコープ・コーベは左翼組織だ、などと失礼なことを言いたいわけではない。ただ壮大で困難な社会実験が成功した稀有な存在なのだ。
筆者を含め多くの兵庫県民、特に神戸市民はコープ・コーベが善良な組織であると疑わないし、信頼と愛着をもって「コープさん」と呼んでいる。特に主婦はその傾向が強い。
品質や値段に特筆すべき利点はない。ただひたすらに適正。プライベートブランドも多いが特に安くもない。だが絶対的な信頼があり、大繁盛するわけでもないが、人口密度に応じて客足は絶えない。
[値段] 適切。激安店を見慣れすぎると割高に見える。
[品質] 適切。粗悪なものは無いという安心感がある。
[品数] 適切。ただし珍しいものは取り扱わない傾向にある。
[美観] 地味。
◇◇◇
コープ・コーベのダンジョンは「コープさん」と呼ばれている。
それはなぜか……
黒い安息日はお米を探しにコープ・コーベのダンジョンへ向かった。女忍者・有馬翔子も同行する。
それはなぜか……
ダンジョンの入り口でコープ・コーベの忍者が待ち受けている。
ただならぬ剣呑……
有馬翔子とアイサツを交わす。
「ドーモ、コープ=サン、ショウコ・アリマです」
「ドーモ、ショウコ・アリマ=サン、コープ・コーベです」
初めてこの光景を目にしたあなたは違和感を感じるかもしれない。当然この後始まるのは壮絶なダンジョン攻略だ。
しかし、コープ・コーベはニンジャの巣窟。神戸市民ならフェイマスな話であり、知らないとマケグミである。
「どーも、黒い安息日です、お米が欲しくて来ましてよ、ホーホホホ!」
今一つ忍者のノリについていけない貴族令嬢・黒い安息日だったが、一応アイサツは行った。実際、礼儀は大切だ。古事記にもそう書かれている。忍者は深々と頭を下げ、キゾク=レイジョウを歓迎した。
「ハイ、ヨロコンデ!」
昭和めいたアトモスフィアを漂わせるコープ・コーベ・ダンジョン。有馬翔子と黒い安息日は、ペーパー・バルーン (紙風船) のBGMとともに進んでいく。ユウジョウ!




