貴族令嬢、ラァァァァァァメンを食べる
凍結の洞窟、ギョウ・スーを出た貴族令嬢・黒い安息日と、忍者・有馬翔子。
すっかり冷えた体を癒すのはラーメンしかない、と意気投合した二人はもはやマブだち、クランバトルに参加しそうな勢いで営業中のお店を探した。
アーカシ市のラーメン屋といえば、まずはあの店。漢カワサキのすぐ近く、近隣に豚骨風味のミノフスキー粒子を24時間散布する「シャロンの豚」
◇◇◇
「いつまで待たせるつもりか」
「シャロンの豚」店内で、妙齢の女性客が注文を待っている。
金髪の店員が、なぜかドヤ顔で対応した。
「お忙しい方なのです」
しばらくして、眉毛のない店長がラーメンの器を女性客の前に置く。
どうやら女性客と顔馴染のようだ。
店長のCVは銀河万丈と思いきや、まさかの山寺宏一。
「特味噌ラーメンお待たせ、久しぶりであるな」
「店長、本店舗では塩分が足りないのではありませんか」
女性客はレンゲでスープを飲む。
濃厚な油が喉を潤し、滑るように芳醇な味噌豚骨を流し込むが……
「……甘くなられたものだ」
こだわりの濃厚豚骨スープをディスる女性客。
塩味が足りなかったようだ。
金髪の店員が激昂する。
「それは店長に対する侮辱ですかッ!」
店の奥から調理担当の店員も飛び出してきた。
自慢の豚骨をディスられたのが我慢ならなかったのだ。
「常連客も気付いておりますぞ、貴女が店内の豚骨臭を嫌ってマスクをされていると」
金髪の店員も追い打ちをかける。
「そのような軟弱な態度が、一蘭に味集中カウンターなどという恥知らずな行為を……うっ……」
喉を押さえもがく金髪の店員。
無言で倒れ込む調理担当。
全てを悟り唸る店長。
店内の換気を怠り、豚骨臭で気絶したのだ。
「これからはゆっくりとお休みなさい、店長」
女性客は換気扇のスイッチを押すと、静かに店を出るのだった。
◇◇◇
アーカシ市のラーメン屋は「シャロンの豚」だけではない。
西新町の国道02号線で屋台発祥の老舗、うまい!うまい!三倍うまい!でおなじみ「赤いラーメンショップ」。
黒い安息日と有馬翔子は、この店の暖簾をくぐるのだった。
ガラガラガラ……
「いらしゃいませ」
店の扉が開き、接客しようとする店員を店長が引き留める。
「スレンダー、君はここに残れ」
「ハッ、店長」
店長自ら接客するつもりらしい。赤い厨房服にアイマスク、目元より口元隠せと言いたが時給に響くので誰も口にしない。客は二名、貴族令嬢風の女に忍び装束の女、正気かコイツら?そう思ったが店長も似たようなものだ。
「ご注文はお決まりかな」
「私は炒飯セットをお願いするわ、ホーホホホ!」
「私も同じっす」
炒飯セットは半炒飯とラーメンのお得なセットメニュー。
しかし……
「デニム、餃子もサービスでつけるぞ」
「しかし、注文は炒飯セットと」
「私がみすみす客を逃すような男と思うか?」
(♪みゅみゅみゅー、みゅみゅみゅん)
────白いラーメン
「赤いラーメンショップ」通称「赤ラ―」は最近急成長している「シャロンの豚」を警戒していた。アーカシ市はラーメン激戦区、赤ラ―も老舗だからと言って油断はできない。固定客に頼らず新規常連を獲得しなければならないのだ。
厨房では黒いシャツの男が三人で調理している。
通称「黒い三銃士」
麺の専門家、ガイア 「うっす、よろしく」
スープの専門家、オルテガ 「がんばります、よろしく」
具の専門家、マッシュ 「よっす、どうも」
ラーメン専門家による三位一体のジェットストリームアタックによって魂の一杯が作られていく。
誰も踏み台にならず完璧なラーメンの出来上がりだ。
「「「へい、お待ち」」」
チリチリと焼ける鉄板の音を聞き分けるのは餃子専門の調理師、マクベ。
水分が飛んだところで油をまわしがけ、表面をカリッと仕上げる。
「これはいい餃子だ、お客さんに届けてくれよ」
「北京帰りの男」と呼ばれたシャリア・ブル。
激しく中華鍋を振るいシャリ (米) 炙る。
強い炎が炒飯を香ばしく焼き付け、家庭では再現できない一品に変えた。
ニュータイプの素養がなくても、うまい炒飯を食べた人の心は感じられるのだ。
「私は炒飯がご馳走として食べられる世を作りたいだけです」
◇◇◇
貴族令嬢・黒い安息日と、忍者・有馬翔子は店を出た。
二人は無言だった。
あまりに美味かったとき、言葉が出ない。
あまりに満足したとき、言葉にならない。
ただキラキラとした幸福な刻 (とき) が過ぎて、
黙って宇宙 (そら) を見上げるばかり。
今はとにかく、おなかがゼクノヴァ寸前だ。
またこの店に来よう、とガンダムが言ってる。




