第82話:墜落の空艦、託された背中
―沈む空、託す想い―
空艦《黒翼改》の内部――
崩れゆく通路を、ミーナはカイルを背負って必死に走っていた。
カイルの意識はまだ戻らず、身体は熱を帯びていた。
魔力の枯渇と傷の深さが、彼の命を削っている。
「お願い、もう少しだけ耐えて……!」
そのとき、崩れた壁の向こうに小さな影が見えた。
「……リィナ!?」
振り返ったのは、幼い少女――
だがその瞳は、確かにリィナのものだった。
「リィナ? なんで子供に……?」
「その話は後で……」
リィナは息を整えながら言った。
「この船はもう持たない……魔導炉が限界。
ミーナ、魔力を少し分けて。脱出魔法を発動する」
ミーナは目を見開く。
「脱出? でも……セレナは!?」
リィナは静かに、指を上へ向けた。
天井の裂け目から見える空――
そこでは、ルゥの背に乗ったセレナが、ザルグと激しい空中戦を繰り広げていた。
雷と黒炎が交差し、空が震えていた。
「……今は、任せるしかないみたいね」
ミーナは拳を握りしめ、うなずいた。
「わかった。セレナを信じる。だから私たちは……生きて、待つ!」
リィナが魔法陣を展開し、ミーナが魔力を注ぎ込む。
脱出の光が、崩れゆく艦内を照らし始めた。




