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第8話:継がれし力



朝の王都は冷たい霧に包まれていた。

グランディール家の館は静まり返り、まるで空気そのものが私を拒んでいるようだった。


ルゥは昨夜から“特別室”に閉じ込められたまま。

扉には魔力障壁が張られ、私の声も届かない。

何度呼びかけても、返ってくるのはかすかな鳴き声だけだった。


「ルゥ……ごめん。私が、あなたを守る」


私は扉の前に膝をつき、左手の指輪に触れた。

銀の指輪が、静かに震えていた。


そのとき、背後から足音が聞こえた。

振り返ると、父グレゴールが立っていた。


「情に流されるな。竜など、ただの道具だ」

彼の声は冷たく、感情の欠片もなかった。


「ルゥは道具じゃない。彼は、私の家族です」


グレゴールは眉をひそめ、私を見下ろした。

「ならば、力の意味を知る覚悟はあるか?」


私は立ち上がり、静かに頷いた。


「お前は、“竜の巫女”の末裔だ。

だが、その力は竜と心を通わせた者にしか発動しない。

血ではなく、共鳴によって継がれる」


私は息を呑んだ。

それは、私が魔力を持たないとされた理由と、今の力の目覚めを繋ぐ答えだった。


「お前が魔力を持たなかったのは、竜と出会っていなかったからだ。

だが今、ルゥと共鳴したことで、力が目覚めた。

王子はその力を欲している。

だからこそ、ルゥを隔離した。

竜と会わなければ、お前はただの娘にすぎない」


私は言葉を失った。

その瞬間、グレゴールは手を振り、使用人達が私を拘束した。


「考える時間を与えよう。

お前が従うまで、部屋からは出られん」


窓の無い部屋に連れていかれて結界が張られた。


私は、幽閉された。


---


時間の感覚が曖昧になっていく。

食事は黙って運ばれ、誰とも話すことはなかった。

ルゥの気配は遠く、指輪の震えだけが、私の心を繋ぎ止めていた。


夜になると、私は窓辺に座り、空を見上げた。

星は見えず、ただ霧が漂っていた。


私は何度も問いかけた。

誰にでもなく、自分自身に。


「私は……何のためにここにいるの?」


答えはなかった。

けれど、胸の奥にあるものは、確かに燃えていた。


怒り。

悔しさ。

そして、決して折れない意志。


私は誰かの飾りではない。

誰かの命令で生きるつもりもない。


私は、空翔ける者。

それだけは、誰にも奪わせない。


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