第79話:聖女降臨、幼き代償
―抗えぬ毒、祈りの奇跡―
魔導炉制御室。
セレナとルゥの身体を蝕む黒毒が、空間を濁らせていた。
ザルグの右腕――魔竜《ヴァル=ネグロス》の頭部から吐き出された黒炎は、炎ではなく魔力を腐蝕する毒。
通常の浄化魔法も、回復魔法も、まったく通じない。
リィナは歯を食いしばり、次々と高度魔法を展開していた。
「風浄陣・改……だめ……!」
「聖域結界……効かない……!」
彼女の魔力は限界に近づいていた。
それでも、セレナとルゥの命を救うため、最後の魔法を放つ。
「最高位魔法――天光律・七層解放!」
七層の光が空間を包み、黒毒に干渉する。
だが――
「この黒毒には魔法など効かぬわ」
ザルグが冷たく言い放つ。
黒毒は光を飲み込み、何も変わらなかった。
リィナの膝が崩れ、魔力が尽きる。
その瞬間――
彼女の身体が淡く輝き始めた。
《ユニークスキル:聖女降臨》
発動条件:魔力枯渇時、対象を救う強い祈り
効果:
- 対象の状態異常を完全浄化
- 生命力の再構築
- 魔耐性(高位魔力への耐性)を付与
- 魔特効(魔族・魔導存在への攻撃力上昇)を付与
代償:発動者は30日間、肉体年齢が10歳以下に退行する
「……お願い……助かって……!」
光が爆発し、黒毒が霧散する。
セレナとルゥの身体から黒い痕が消え、魔力が安定し始めた。
さらに、二人の身体には淡く輝く魔紋が浮かび、魔耐性と魔特効の加護が宿る。
だが――
リィナの姿は、光の中で小さくなっていた。
髪は短く、身体は幼く、声も細くなっていた。
「……うそ……また、子供になっちゃった……」
セレナが目を見開く。
「リィナ……!」
リィナは微笑みながら、ふらりと座り込む。
「だいじょうぶ……みんなが助かったなら……それでいいの」




