表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/85

第6話:揺れる決意



辺境の空は、静かに晴れていた。

ルゥは庭先で羽を広げ、陽の光を浴びながら転がっている。

私は干した薬草を束ねながら、彼の寝息に耳を傾けていた。


この村での暮らしは、静かで、穏やかで、何より“自由”だった。

誰にも見下されず、誰にも命令されず、ただルゥと共に生きていける。

それだけで、十分だった。


けれど、その静けさは突然破られた。


午後、村の入り口に一台の馬車が現れた。

グランディール家の紋章を掲げた黒い馬車。

扉が開き、使者が降り立った。


「セレナ様。王都よりお迎えに参りました」

使者は丁寧に頭を下げながら、冷たい声で告げた。


「王子殿下が、あなたを気に入られたとのこと。

グレゴール様より、“すぐに戻るように”との命です」


私は静かに首を振った。

「戻るつもりはありません」


使者は一瞬だけ眉を動かし、そして言った。

「一週間後にまたお迎えに伺います…戻られるのであれば、“イリス様の秘密”を知る事ができるとの事です、よくお考え下さい。」


母の名が出た瞬間、私は言葉を失った。

イリス――空を見上げて微笑んでいた、私の母。

彼女の死には、何か隠されたものがあると、ずっと感じていた。


使者はそれ以上何も言わず、馬車に乗って去っていった。


---


その一週間は、長かった。

ルゥはいつも通り私の後をついてきて、ミルクを飲み、布団で丸くなって眠った。

けれど私は、心の奥でざわつく何かを抱えていた。


母の秘密。

それは、私が追い出された理由と関係があるのかもしれない。

それとも、私が“魔力を持たない”とされたことと――。


そして、一週間後。

使者は再び現れた。

今度は、ひとりで、静かに扉を叩いた。


「セレナ様。ご決断はいかがでしょうか」


私は黙って彼を見つめた。

使者は懐から古びた封筒を取り出し、ゆっくりと差し出した。


「イリス様の秘密を……知りたくないのですか?」


その言葉に、私は左手を見た。

薬指の銀の指輪が、かすかに震えていた。

母の形見。

彼女が残した、唯一の温もり。


私はルゥを見た。

彼は静かに鳴き、私の足元に寄り添った。


「行こう、ルゥ。

母の真実を、私の目で確かめる」


辺境の空は、少しだけ風を強めていた。

それは、過去と向き合う旅の始まりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ