第55話:未到達領域、火炎砲作戦
―死の淵50階層、人類未踏の地―
洞穴の奥。
魔物の咆哮が絶え間なく響き、腐敗した空気が三人の肺を焼いていた。
ミーナが壁に刻まれた魔導文字を読み取り、息を呑む。
「……この印、階層番号。ここ、50階層って書いてある」
リィナが魔力視で確認し、顔を強張らせる。
「人類が到達したのは、たしか38階層まで……
ここは完全に未到達領域。誰も生きて帰ったことがない」
カイルが剣を握り直す。
「じゃあ、俺たち……地図にも載ってねぇ地獄に放り込まれたってことか」
ミーナが魔物の群れを見つめながら言う。
「でも、伝承によれば――全ての魔物を倒した後に、ボス部屋があるはず」
リィナが沈黙の中で、ふと顔を上げる。
「……わたしに考えがある」
二人が振り向く。
「洞窟の奥まで進んで、ミーナの炎結界を展開。
私が風でそれを押し広げて、カイルが剣技を放てば――
火炎砲のような形で、前方の魔物を一掃できるかもしれない」
ミーナが目を見開く。
「それ……できるかも。炎を風で加速させれば、爆裂する」
カイルがニヤリと笑う。
「焼いたほうが食いやすいしな」
リィナが真顔で頷く。
「そう。焼けば魔力の濁りも減る。
食べることが前提なら、効率よく焼いて、効率よく倒す」
ミーナが炎を灯す。
「じゃあ、やるしかない。
この地獄を、火と風と剣で焼き尽くす」
三人は洞窟の奥へと進み始めた。
死の淵50階層――人類未踏の地で、火炎砲作戦が始まろうとしていた。




