第50話:死の淵、魔導の罠
―深層魔導兵の本領、転移の罠―
森の縁で深層魔導兵に囲まれたカイルは、剣を構えていた。
十数名の黒衣の兵が無言のまま魔力を収束させる。
その空気は、ただの戦闘ではなかった。
――魔導術式が、異常なほど複雑だった。
「……来いよ。まとめて斬ってやる」
カイルが踏み込もうとした瞬間、空気が歪んだ。
「状態異常術式、展開」
魔導兵たちが一斉に詠唱を開始。
次の瞬間――
- 足元に魔法陣が浮かび、動きが鈍る
-視界が揺れ、目が霞む
-神経に魔力が走り、身体が痺れる
「ぐっ……っ、なんだこの魔法の重ね方……!」
カイルが膝をつく。
深層魔導兵の本領――複合状態異常魔法の連打。
通常の戦士では、数秒で沈む。
その背後から、ヴェルドが現れる。
黒衣の裾を翻し、静かに詠唱を始める。
「転移術式・死の淵座標、起動」
空間が裂け、黒い渦が開く。
カイルが剣を支えながら睨みつける。
「……転移魔法か。どこに飛ばす気だ」
ヴェルドは冷たく微笑む。
「死の淵の最深部。魔物の巣窟だ。
状態異常のまま、そこに放り込まれれば――5分と持つまい」
「……上等だ」
カイルが笑う。
「その5分で、何匹斬れるか試してみるか」
ヴェルドが指を鳴らす。
転移陣が発動し、カイルの身体が黒い渦に飲み込まれる。
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次の瞬間、カイルは死の淵の最深部に立っていた。
空気は腐敗し、地面は魔物の血で濡れていた。
周囲には、牙を剥く魔物たち――十数体。
カイルは痺れる腕で剣を握り直す。
「状態異常のまま死の淵か……
……いいじゃねぇか。燃えるぜ」
魔物たちが咆哮を上げ、襲いかかる。
その中で、カイルの剣が閃いた。




