第49話:爪痕の真実
―墜落現場、残された謎と待ち伏せ―
飛行艇〈ウィンドレイヴ〉は丘陵地帯に不時着していた。
船体は裂け、煙が立ち上る。
外殻には無数の爪痕――鋭く、深く、焼け焦げたような痕が刻まれていた。
ミーナが船体に手を添え、魔力の残滓を探る。
「これは……竜種の爪痕。しかも、尋常じゃない力で叩き込まれてる」
リィナが風精霊を呼び、空気の流れを読む。
「風が乱れてる。何かが飛び立った痕跡がある……でも、誰が?」
カイルは裂けた甲板を踏みしめ、内部へと進む。
「フィンの気配がない。……ここで何があった?」
船内は荒れていた。魔導装置は破壊され、記録水晶は砕かれていた。
まるで、何者かが意図的に痕跡を消したかのように。
ミーナが眉をひそめる。
「ザルグ……なの?でも、確証はない。爪痕だけじゃ断定できない」
リィナが静かに言う。
「でも、フィンは確かにここにいた。
そして今、いない。それだけは、事実よ」
カイルが拳を握りしめる。
「連れて行かれたんだ。誰であれ、フィンを奪ったなら――俺たちが取り返す」
三人は飛行艇の残骸を背に、空を見上げた。
風は静かに流れていたが、その奥に何かが潜んでいるような気配があった。
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帰路。丘陵地帯の外れ。
カイルは先行して森の縁を歩いていた。
その時、風が止まり、空気が重くなる。
「……嫌な気配だな」
剣に手を添えた瞬間、木々の間から黒衣の影が現れた。
深層魔導兵――ザルグ直属の禁忌部隊。
無言のまま、十数名がカイルを囲む。
その手には魔導刃、目には魔力の光。
カイルが低く笑う。
「なるほど……待ち伏せか。
フィンを連れてったのは、やっぱりお前らか?」
魔導兵たちは答えず、魔力を収束させ始める。
カイルは剣を抜き、構えた。
「いいぜ……俺一人でも、十分暴れてやる!」
風が再び動き出す。
戦いの火蓋が、静かに切られようとしていた。




