第45話:静寂の村、風の囁き
―セレナ村にて―
午後3時。王国南部・セレナ村。
空竜の咆哮が遠ざかり、風は穏やかに吹いていた。
戦いを終えたセレナとエリシアは、王都から離れたこの小さな村へと戻ってきていた。
村の名は「セレナ村」。
かつてセレナが育った場所であり、空竜ルゥと初めて出会った地でもある。
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エリシアは村の泉のほとりに腰を下ろし、澄んだ水面を見つめていた。
「こんなに静かな場所が、まだ残っていたのね……」
セレナは隣に座り、微笑んだ。
「ここは、空の記憶が眠る場所。帝国の手が届かない、風の守りがある」
ルゥは村の丘に佇み、翼をたたんで空を見上げていた。
その背には、戦いの痕がまだ残っていたが、瞳は穏やかだった。
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村の子どもたちがエリシアを囲み、花冠を差し出す。
「お姫さま、これあげる!」
「空竜と一緒に戦ったんでしょ?」
エリシアは驚きながらも、花冠を受け取る。
「ありがとう……私、守られてばかりだったけど……今度は、守る側になりたい」
セレナはその言葉に目を細める。
「その気持ちがあれば、もう十分よ。空は、そういう人を選ぶの」
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その夜、セレナは村の塔に登り、風の流れを感じていた。
フィンからの通信が届く。
「セレナ、風が乱れてる。レヴィアスの残党が動き始めたかもしれない」
「……やっぱり、終わってなかったのね」
セレナは剣に手を添え、空を見上げる。
「でも、今度はこの村を守る。空も、大地も、絆も――全部、私たちのものよ」
風が吹いた。
それは、静寂の中に潜む予兆だった。




