第44話:帝国の残火
―魔晄炉消失後の世界―
午前5時。レヴィアス帝国・中央州。
魔晄炉の爆心地は、今もなお赤黒い煙を吐き続けていた。
かつて魔力の奔流が満ちていた空間は、今や沈黙と瓦礫に覆われている。
帝国軍の通信網は途絶。
魔導機構は沈黙。
空を飛ぶ術も、地を走る魔導車も、すべてが止まった。
「……魔晄炉が、消えた?」
帝国軍第七師団・残存兵の一人が、崩れた塔の上で呟いた。
「いや、消えたんじゃない。――奪われたんだ」
その声は、黒衣の男。
帝国魔導参謀だったザルグの副官、ヴェルド。
彼は瓦礫の中から、焦げた魔導核を拾い上げる。
「セレナ……空竜……そして、あの飛行艇。
レヴィアスをここまで追い詰めるとはな」
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王都・空竜の塔
セレナたちは王都へ帰還していた。
空竜ルゥは塔の頂に佇み、静かに空を見つめている。
フィンは風精霊と交信を続けながら、魔力の流れを監視していた。
「魔晄炉の崩壊で、世界の魔力分布が変わり始めてる。
風が、少し荒れてるね」
フィンが呟く。
ミーナは魔導砲の再調整を進めながら言った。
「帝国が沈んでも、魔力の残火は残る。
それが暴走すれば、次は王都が危ない」
リィナは風の流れを読みながら、塔の外縁に立つ。
「風が……何かを運んでる。
遠くから、黒い気配が近づいてる」
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帝国残党の動き
レヴィアス帝国の残党は、各地で再編を始めていた。
魔導士ヴェルドは、地下魔導炉の再起動を試みていた。
「魔晄炉が失われても、我らには“黒核”がある。
あれは、かつて禁忌とされた魔力の源……」
彼の背後には、黒衣の部隊が並ぶ。
かつてザルグが封印していた“深層魔導兵”――
魔晄炉の崩壊によって、封印が緩み始めていた。
「セレナ……貴様らが空を取り戻したというなら、
我らは地の底から這い上がってやる」
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セレナの誓い
夜。空竜の塔。
セレナはルゥの背に座り、静かに空を見上げていた。
「魔晄炉を壊しても、まだ終わってない。
レヴィアスは、空だけじゃなく、地にも魔を潜ませていた」
ルゥが低く咆哮する。
その声は、警戒と決意の混じったものだった。
「でも、私たちはもう迷わない。
空を守る者として、地の闇にも立ち向かう」
風が吹いた。
それは、次なる戦いの予兆だった。




