第35話:帝国の牙城
北方の空は重く、風は冷たかった。
魔導士協会の座標解析により、帝国の拠点は山岳地帯の廃施設――かつて魔力兵器の研究が行われていた場所と判明した。
セレナたちは空を翔けてその地へ向かった。
ルゥの背に乗るセレナとレオニス。
その後を、カイル、ミーナ、リィナが続く。
施設は岩肌に埋もれるように建てられていた。
外壁には魔力障壁が張られ、侵入者を拒むように脈動している。
「魔導結界、三層構造。突破には時間がかかる」
ミーナが術式を解析しながら言う。
「風が通れる裂け目がある。そこから侵入できる」
リィナが風術で隙間を見つける。
カイルが剣を抜き、先陣を切る。
「俺が道を開く。後ろは任せた」
施設内部は冷たい金属と魔力の匂いに満ちていた。
壁には魔導装置が並び、奥では魔力兵器が静かに脈動している。
その時、空間が歪んだ。
黒い霧が広がり、ザルグが姿を現す。
「ようこそ。この空間は、我が術の庭。逃げ場はない」
セレナが前に出る。
「エリシアを返して。彼女は、あなたの野望の道具じゃない」
「違う。彼女は“鍵”だ。空竜の力を開くための器」
ミーナが魔導陣を展開し、リィナが風を巻き起こす。
カイルが剣を構え、レオニスが魔力を集中させる。
だが、施設全体が術式の罠として設計されていた。
侵入者を誘い込み、魔力を吸収する構造。
「一度撤退する。ここは、準備なしでは危険すぎる」
レオニスが判断を下す。
セレナは悔しげに拳を握る。
「エリシア……必ず、取り戻す」
ルゥが咆哮を上げ、風を巻き起こす。
その力で空間を裂き、彼らは脱出した。
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王都への帰還後、セレナたちは沈黙の中で次の策を練っていた。
ザルグの術式、施設の構造、そしてエリシアの意識の揺らぎ――
すべてが、次なる戦いの布石となる。
その夜、セレナは塔の上で空を見上げた。
風は静かに流れ、星々は彼女の決意を見守っていた。
「次は、必ず届く。あなたの声に、私の風を重ねる」
そして物語は、次なる章へと翔けていく。
囚われの少女の心に触れるために――
空の絆を、さらに深く結ぶために。




