第32話:絆の芽吹きと不穏の兆し
王宮の庭園に、柔らかな陽光が差し込んでいた。
セレナはエリシアと並んでベンチに座り、咲き誇る花々を眺めていた。
「この花、空竜の羽に似てますね」
エリシアが指差したのは、淡い青の花弁を広げた風花草だった。
セレナは微笑む。
「風の流れに敏感な花よ。ルゥもよくこの花のそばで眠るの」
エリシアは頬を染めて頷いた。
「セレナ様と話してると、空が近く感じます」
その言葉に、セレナの胸が少しだけ温かくなった。
誰かにそう言われることが、今の彼女には何よりの救いだった。
それからの数日、セレナとエリシアは姉妹のような時間を過ごした。
庭園で花を摘み、塔の上で空を眺め、夜には星の話を語り合う。
セレナの心に、久しく忘れていた“家族”の温もりが芽吹いていた。
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しかし、王宮の空気には微かな緊張が漂っていた。
結婚式を三日後に控え、祝福の準備が進む一方で、セレナの胸には言葉にできない不安が広がっていた。
ルゥが時折、空を見上げて低く鳴く。
その鳴き声は、風の乱れを感じ取っているようだった。
夜、セレナは塔の上でひとり空を見つめていた。
風は穏やかだったが、どこか落ち着かない。
「何かが……来ているの?」
彼女はルゥの背に手を添えながら、静かに問いかけた。
ルゥは目を細め、風の流れを読むように翼を広げた。
その瞬間、遠く帝国の空で、黒衣の魔導士ザルグが静かに笑っていた。
「祝福の空か……ならば、裂く価値がある」
夜の風が、静かにざわめき始めていた。




