第28話「崩れる玉座」
第一章:王宮の異変
王都の空は、重く沈んでいた。
魔導士協会の建物には封印の紋章が刻まれ、出入りが制限されていた。
街の人々は、王宮の命令に怯えながらも、何かがおかしいと感じ始めていた。
「王太子殿下が、協会長の解任を正式に発表したわ」
ミーナが報告書を手にして言った。
「代わりに、リディア・ヴェルシュタインが“臨時監督官”として協会を指揮することになったらしい」
カイルの声は冷たかった。
私は、静かに息を吐いた。
リディアは、王妃の座を諦めていなかった。
むしろ、アルベルトの不安定さに乗じて、権力を握ろうとしていた。
「でも、彼女の命令は矛盾だらけよ」
ミーナが眉をひそめる。
「魔力検査の基準が日によって変わるし、協会の記録を勝手に改ざんしてる」
「それ、もう失脚の前兆じゃないか?」
カイルが呟いた。
リィナは窓辺に立ち、風の流れに耳を澄ませていた。
「風が騒いでる。命令の裏に、焦りと混乱が渦巻いてる。王都の空気が崩れ始めてる」
ルゥが低く鳴いた。
それは、警戒の音だった。
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第二章:暴走の兆し
王宮では、アルベルト殿下が禁術の研究に没頭していた。
空の支配、魔力の強制共鳴、そして――竜の力の模倣。
「殿下は、空翔ける者の力を“制度”に組み込もうとしている」
レオニス殿下が、魔術院の記録を見せながら言った。
「でもそれは、絆の力を歪めることになる。
空翔ける者は、命令で動く存在じゃない。
意思で翔ける者だ」
私は、静かに頷いた。
「彼は、私を理解しようとしているんじゃない。
私を“手に入れよう”としている」
リィナがそっと言った。
「風は、支配されるものじゃない。彼が空を握ろうとするなら、空は彼を拒む」
レオニスの瞳は、深く沈んでいた。
「兄は、王都を守ろうとしている。
でもその方法が、王都を壊し始めている」
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第三章:リディアの崩壊
その夜、魔導士協会で騒ぎが起きた。
リディアが、協会の禁書庫に無断で侵入し、封印された魔術書を持ち出そうとしたのだ。
「これは、王都の秩序を守るための行動です!」
彼女は叫んだ。
けれど、その手に握られた魔術書は、禁術の中でも最も危険なものだった。
協会の魔導士たちは動揺し、王宮の監査官が動いた。
そして、リディアは拘束された。
「王妃の座を得るために、禁術に手を出すとは……」
協会長代理が、静かに言った。
その瞬間、リディアの顔が蒼白に染まった。
彼女の傲慢は、ついに自らを滅ぼした。
私は、遠くからその光景を見つめていた。
そして、静かに呟いた。
「あなたが私を嘲笑したことで、私は強くなれた。
でも、あなたが自分を見失ったことで――私は、もう哀れみすら感じない」
リィナは風をまといながら言った。
「風は、傲慢を嫌う。彼女の空は、もう閉じた」
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第四章:風の前触れ
王都の空に、風が吹いた。
それは、過去を断ち切る風。
そして、未来を運ぶ風だった。
レオニス殿下は、王宮の回廊に立ち、空を見上げていた。
その瞳には、決意が宿っていた。
「兄の暴走を止めるには、僕が玉座に立つしかない。
この国を守るために、誇りを取り戻すために」
私は、彼の隣に立った。
「その時が来たら、私は空翔ける者として、あなたの背を支えます」
リィナは風を送りながら言った。
「風は、誇りを知ってる。その空に、嘘は届かない」
ルゥが翼を広げ、夜空に舞い上がる。
その姿は、誓いの象徴だった。
そして私は、空を見上げながら思った。
この国は、変わらなければならない。
誇りと絆で――新しい空を翔けるために。




