第27話「空翔ける者の決断」
第一章:王都の亀裂
王都の空は、鈍い灰色に染まっていた。
街の広場では、魔導士たちが集められ、王宮からの命令を待っていた。
その表情は緊張に満ち、誰もが口を閉ざしていた。
「王太子殿下の命令で、魔導士協会の独立権が一時停止されたそうです」
ミーナが報告書を手にして言った。
「反対した者は、拘束されたらしい。協会長まで」
カイルの声は低く、怒りを抑えていた。
「それだけじゃない」
ミーナが声を潜めて続けた。
「リディア・ヴェルシュタインが、協会の人事に介入してる。
彼女の推薦で、王宮直属の魔導士が次々と配置されてるの」
私は眉をひそめた。
「彼女は、王妃の座を諦めていないのね」
「むしろ、殿下の不安定さに乗じて、権力を握ろうとしてる。
でも、やりすぎれば……自分の足元が崩れるわ」
リィナが風をまといながら静かに言った。
「風が濁ってる。命令の裏に、焦りと欲望が絡んでる。王都の空気が、歪み始めてる」
ルゥが低く鳴いた。
それは、警戒と怒りの混ざった音だった。
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第二章:民の声
その夜、私は王都の外れにある薬草市場を訪れた。
かつて私が学んだ場所。
今は、民の声が集まる場所でもあった。
「セレナ様……王都は、どうなってしまうんですか?」
年老いた薬師が、震える声で尋ねた。
「魔導士たちが連れて行かれて、街の魔道具店も閉鎖されました」
若い商人が、拳を握りしめていた。
「リディア様の命令で、魔力検査が義務化されたって……
でも、あれは王都の伝統に反するはずです」
別の声が、静かに言った。
私は、彼らの声を聞きながら、胸の奥に熱を感じていた。
この空気は、かつて私が辺境で感じた“恐怖”と同じだった。
リィナがそっと言った。
「風が怯えてる。民の声が届かない空は、長くは続かない」
「私は、空翔ける者として――この空気を変えます」
その言葉に、民たちは静かに頷いた。
希望ではなく、信頼のまなざしだった。
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第三章:レオニスの覚悟
魔術院の中庭で、レオニス殿下と再び言葉を交わした。
彼は、王宮の報告書を手にしていた。
「兄は、禁術の研究を始めた。
“空の支配”を可能にする術式を探しているらしい」
私は、息を呑んだ。
空を翔ける力――それは、絆と誇りの象徴。
それを“支配”しようとすることは、空そのものを歪めること。
「リディア嬢も、その研究に関与している。
彼女は、王妃の座を得るためなら、禁術の代償すら受け入れるつもりだ」
レオニスの言葉は、静かで、鋭かった。
「このままでは、王都は崩れる。
兄を止めるには、王族としての責任を果たすしかない」
私は、彼の瞳を見つめた。
そこには、迷いはなかった。
「その時が来たら、私はあなたの隣に立ちます。
空翔ける者として、誇りを守る者として」
リィナが風を送りながら言った。
「その誓いは、風に乗って届く。空は、真実を知ってる」
ルゥが静かに鳴いた。
それは、誓いの音だった。
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第四章:空翔ける者の決断
夜。
私は王都の塔の上に立ち、空を見上げていた。
かつて憧れた空。
今は、私の背に広がる空。
「私は、誰かの飾りではない。
誰かの都合で動く者でもない。
私は、私の意思で空を翔ける」
ルゥが翼を広げ、夜空に舞い上がる。
私は彼の背に乗り、王都の空を翔けた。
その空は、重く、けれど確かに広がっていた。
そして私は、誓った。
この空を、誇りで満たす。
この国を、絆で守る。
それが、空翔ける者の決断だった。
そしてその空の下で――
誰かが、権力の欲に溺れ、足元を崩し始めていた。
リディア・ヴェルシュタイン。
彼女の傲慢は、静かに自らを滅ぼす種となっていた。




