第24話「王太子との再会」
第一章:静かな対面
舞踏会の翌朝、王宮から正式な使者が訪れた。
「王太子殿下が、セレナ・グランディール嬢との謁見を希望されています」
その言葉に、私は一瞬だけ沈黙した。
かつて私を「器がない」と切り捨てた人。
王妃候補として育てられ、何もかもを捧げた相手。
そして、私を捨てたことで、私の人生は変わった。
「……会います。過去と向き合うために」
私は静かに答えた。
ルゥが隣で鳴いた。
それは、警戒と理解の混ざった音だった。
謁見の間は、以前と変わらず豪奢だった。
けれど、私の目には、もう何の輝きも感じなかった。
アルベルト殿下は玉座の前に立っていた。
その姿は威厳に満ちていたが――
その瞳には、迷いと焦燥が滲んでいた。
「セレナ……久しいな」
彼の声は、かつてよりも低く、重かった。
「ええ。久しぶりですね、殿下」
私は礼を欠かさず、けれど感情を込めなかった。
沈黙が流れる。
そして、彼は口を開いた。
「君との婚約を破棄したこと……後悔している。
あの時、君の価値を見誤った」
その言葉は、まるで告白のようだった。
けれど、私の心はもう揺れなかった。
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第二章:冷静な拒絶
「君は、魔力がないと思っていた。
王妃としての器に欠けると……そう信じていた。
でも、君はそれ以上のものを持っていた。
絆の力、民の信頼、そして――空を翔ける力」
私は、静かに彼を見つめた。
「そのことに気づいたのは、私がいなくなってから、ですね」
彼は言葉を詰まらせた。
その指先は、わずかに震えていた。
「私は、あなたに認められるために生きていた。
でも今は違う。
私は、自分の意思で生きている。
誰かに選ばれるためじゃなく、誰かを守るために」
アルベルトは、静かに頷いた。
けれど、その瞳には諦めの色はなかった。
「……もし、もう一度やり直せるなら。
君と共に歩みたいと思っている。
王妃として、隣に立ってほしい」
私は、微笑んだ。
それは、優しさではなく――決別の微笑だった。
「その道は、もう私のものではありません。
私は、空を翔ける者。
そして、あなたの隣に立つ者ではない」
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第三章:それぞれの空へ
謁見の間を出たあと、私はルゥの背に乗って王宮の庭を見下ろした。
かつて憧れた場所。
けれど、今はただの過去。
「ありがとう、アルベルト殿下。
あなたが私を捨てたことで、私は自分を見つけられた」
ルゥが翼を広げ、空へ舞い上がる。
私は彼の背で風を受けながら、王都の空を翔けた。
その空は、かつて私が見上げていた空。
今は、私の足元に広がっていた。
風が吹いた。
それは、過去を超え、未来を拓く風だった。
そしてその風の向こうで――
王宮の回廊に立つレオニス殿下が、静かに私を見送っていた。
彼の瞳には、焦りも執着もなかった。
ただ、誠実な敬意と、揺るがぬ信頼が宿っていた。
「君が空を翔けるなら、僕は地上から風を送る」
その言葉は、声にならずとも、確かに届いていた。
そして、玉座の階段に立ち尽くすアルベルトの背は――
少しずつ、孤独に沈んでいくように見えた。




