第18話「目覚めの代償」
深界の空は、静かに揺れていた。
魔王ヴァルゼインが去った後、空間には重たい沈黙だけが残っていた。
セレナは膝をつき、拳を握りしめていた。
「……私たちの力じゃ、届かなかった」
ルゥがそっと彼女の背に寄り添い、低く鳴く。
その声には、悔しさと慰めが混ざっていた。
ミーナは氷の結界を解きながら、静かに言った。
「魔力の流れが……まだ乱れてる。結界は保ってるけど、限界は近い」
カイルは剣を地に突き立て、深く息を吐いた。
「奴の力は、次元が違った。俺たちが束になっても、まるで歯が立たなかった」
リィナは風の精霊を呼び、空気の震えを探る。
「風が……怯えてる。でも、逃げろとは言ってない。進めって」
セレナはゆっくりと立ち上がり、仲間たちを見渡した。
「ヴァルゼインは言った。“何かを捨てておけ”って。
それが何なのか、まだ分からない。でも、私たちには選ぶ力がある」
ミーナは頷く。
「恐れを捨てるのか、過去を捨てるのか、それとも……」
カイルが笑う。
「全部だろ。中途半端じゃ、あいつには届かない」
リィナは風をまといながら、静かに言った。
「風は、止まらない。私たちが止まらない限り、道は続く」
セレナはルゥの背に手を添え、空を見上げた。
「なら、進もう。もう一度、深界の奥へ。
今度こそ、届かせるために」
風が吹いた。
それは、痛みを越えた者たちにだけ許される、再起の風だった。




