第17話「抗う者たち」
リィナの風障壁が消え、空間には魔王ヴァルゼインの気配が残っていた。
セレナは前に出て、声を張り上げる。
「あなたが災厄の源なら、ここで終わらせる!」
カイルが剣を炎で包み、ミーナが氷の槍を構え、リィナは風の刃を巻き起こす。
セレナはルゥと共に竜の力を解放し、魔力の奔流を操る。
四方からの攻撃が魔王を包囲する。
炎が焼き、氷が縛り、風が裂き、竜が咆哮する。
だが――
ヴァルゼインは微動だにせず、片手を軽く上げただけだった。
その瞬間、空間がねじれ、すべての攻撃が弾かれ、霧のように消えた。
「なっ……!」
カイルの剣が震え、ミーナの魔力が乱れ、風の精霊は悲鳴を上げて消えていく。
ルゥが吠えながら突進するが、魔王の視線一つで地に伏す。
セレナの魔力が暴走しかけ、リィナが風の結界でなんとか押さえ込む。
ヴァルゼインはようやく口を開いた。
「力を持つ者が集えば、抗うことはできる。だが、抗うだけでは届かん」
彼は一歩、ゆっくりと歩き出す。
誰も、その背に踏み出せなかった。
「次に会う時までに、何かを捨てておけ。そうでなければ、また同じだ」
そして、彼はその場を去っていった。
空間の揺らぎは静まり、残されたのは敗北の痛みと、沈黙だけだった。
セレナは拳を握りしめ、呟いた。
「……必ず、届かせる。次こそは」
──夜は明けない。だが、希望はまだ消えていない。




