第68話:血と蔦の罠
バックスは土煙の中でゆっくりと身を起こした。
視界が揺れ、足に鋭い痛みが走る。
「……痛ぇ……足いかれたな……」
左足を引きずりながら周囲を見渡す。
竜騎兵は地面に倒れ、すでに息絶えていた。
だが――ビショップの姿がない。
バックスが息を整えた瞬間、
頭上の木々が揺れた。
「死ねぇぇぇぇ!!」
ビショップが木の上から飛びかかり、
その手刀がバックスの腹に深く突き刺さった。
「ぐっ……あぁぁ……!」
二人の顔が至近距離で向き合う。
ビショップの瞳は怒りと狂気で燃えていた。
バックスは苦痛に歪みながらも、
ふっと笑った。
「……くそ……美人だな……お前……」
ビショップは一瞬だけ動きを止める。
「……お前も……イケメンだな」
「……美人はな……大好物なんだよ」
「……は?」
次の瞬間――
バックスはビショップの首筋に噛みついた。
「っ……はぁぁぁぁぁ〜……!」
ビショップの身体が震え、
魅了の効果で力が抜けていく。
バックスは腹に刺さった手刀を引き抜き、
ゆっくりと立ち上がった。
傷はみるみる塞がり、足の痛みも消えていく。
「……魔族でも、美人の血は美味いな」
ビショップは震え、涙を浮かべていた。
怒り、屈辱、そして魅了の余韻が混ざった複雑な表情。
「……貴様ぁぁぁぁぁ!!
イビルプラント!!」
地面が裂け、巨大な植物が姿を現した。
「なっ……!」
太い蔦がバックスに絡みつき、
首、両腕、両足を引き伸ばすように拘束する。
まるで磔にされたような体勢だ。
「……くそ! 何もできねぇ!」
ビショップは荒い息を吐きながら言う。
「イビルプラントの蔦は魔法封じ……無駄よ……
この私を傷つけ、挙げ句に辱めまで与えおって……
許さん……が……」
ビショップはバックスの顔を見つめ、
一瞬だけ迷うように目を細めた。
「……眷属になれば、生かしておくが……?」
バックスは苦笑する。
「……お前の眷属か……悪くはねぇが……
今はやることがあるんでな……無理だな」
ビショップの瞳が怒りで燃え上がる。
「……仕方ない……
私のものにならないなら――
死ねぇぇ!!」
バックスは目を閉じた。
森に、風の音だけが響いた。




