第54話:赤い結界の夜明け
クラリッサは、ふっと意識が浮上する感覚とともに目を開けた。
胸の奥に残っていた痛みが、ほとんど消えている。
「……え……?」
周囲を見回す。
小さな木造の小屋。
薄暗い室内に、かすかな焚き火の匂い。
アメリアは身体を丸め、子猫のように眠っていた。
その隣では、バックスがフードを深くかぶったまま、
壁にもたれて静かに寝息を立てている。
クラリッサは自分の身体に触れた。
筋肉の張りも、魔力の枯渇も、ほとんど回復している。
「……こんな短時間で……?
普段なら三日は動けないはずなのに……」
信じられない回復速度だった。
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■ 赤い結界
クラリッサはそっと立ち上がり、小屋の扉を開けて外へ出た。
夜明け前の薄い光。
その中で――
赤い半透明の結界 が森一帯を包んでいた。
「……これは……」
バックスの血結界。
昨日、戦場で見たものと同じ色。
触れずとも分かる。
この結界には、
治癒と魔力回復の効果 が込められている。
「……やっぱり……ただのバンパイアじゃない……
きっと、高名な……いや、伝説級の……」
クラリッサは結界を見上げながら、
バックスのこれまでの行動を思い返す。
アメリアを守り、
セレナの名を口にし、
命を賭して戦った。
敵であるはずがない。
むしろ――
「……セレナ様との関係……
きっと、深いものがあるんだわ……」
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■ 決意
胸の奥に、重いものが沈んでいる。
昨日までの世界が、一夜にして崩れた。
エルミナは封じられ、
仲間は散り散りになり、
未来は見えない。
それでも――
クラリッサは拳を握りしめた。
「……考えることはいっぱいある……
でも今は……アメリアを守ることだけを考える……」
赤い結界の向こうで、朝日が昇り始める。
「一夜にして全てが変わった……
でも――」
クラリッサの瞳に、強い光が宿った。
「絶対にエルミナを復活させる……」
その誓いは、
静かな森の中で、確かに響いた。




