第43話:血の契約、蘇る姫
セレナの叫びが響いた瞬間――
床に飛び散っていた血が、まるで意思を持つかのように蠢き始めた。
血はゆっくりと集まり、形を変え、人型へと変化していく。
赤黒い霧が立ち上り、やがて長身の男の姿が現れた。
バックスだった。
「……おい、おい、俺を呼ぶ時は事前に――」
言いかけたバックスは、周囲の光景を見て固まった。
「な! なんじゃこりゃあ!!」
上空には二千の竜騎兵。
目の前にはザルグ親衛隊の三人――デルタ、G、クラッシュ。
そして、瓦礫と魔力の残滓に満ちた城の最上部。
バックスは即座にセレナの背に隠れた。
「……しかもあの三人、親衛隊じゃねえか!
さすがの俺でも分が悪すぎるぞ!!」
セレナは振り返り、静かに言った。
「バックス……あんたにお願いがある」
「はぁ?!」
バックスは思わず声を裏返らせる。
セレナは懐から、赤い宝石のついた首飾りを取り出した。
それはアメリアに渡すはずだった“最後の護符”。
「孫のアメリアに……これを渡して」
バックスは目を見開く。
「……な……」
セレナは微笑んだ。
その笑みは、どこか寂しく、しかし強かった。
「全ての契約を飲むわ」
バックスは息を呑む。
「……了解した」
だがセレナは続けた。
「ついでにもう一つ……私をバンパイアにして」
「……はぁ?」
バックスは完全に固まった。
セレナはザルグを見据えたまま言う。
「最後に……一矢報いたい」
その声には、老いた体に残る最後の炎が宿っていた。
バックスはしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。
「……わかった……」
彼の手に血が集まり、赤黒い剣のような形を作る。
その刃で自らの手のひらを切り裂き、セレナに差し出した。
「……俺の血を飲め」
セレナは迷わず、バックスの血を口に含んだ。
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その瞬間――
空気が震え、セレナの体に黒い魔力が流れ込んでいく。
老いた肌がゆっくりと張りを取り戻し、
深い皺が薄れ、
白髪が赤黒く染まり、
背筋が伸び、
瞳が紅く輝いた。
まるで時間が巻き戻されるように、
かつて“竜の姫”と呼ばれた頃の若々しい姿が蘇っていく。
バックスが息を呑む。
「……本当に……戻りやがった……」
セレナはゆっくりと目を開けた。
その瞳は、若き日の鋭さと、長い年月を生きた深い覚悟を宿していた。
「……これでいい。
ザルグに……最後の一撃を」
若返ったセレナが立ち上がると、
周囲の空気が一変した。




