第40話:バンパイアの友人
「俺の名前はバックスだ。セレナの友人とでも言っておこう。
……とにかく、ここを離れるぞ」
突然現れた長身の男――バックスは、迷いなく二人に背を向けて森の奥を見据えた。
アメリアは戸惑いながらも言葉を返す。
「……でも、エルミナが……」
クラリッサがアメリアの腕を掴み、静かに首を振る。
「……あの状況……私たちだけじゃ、今は何もできないよ」
その言葉は悔しいほど正しい。
アメリアは唇を噛みしめた。
バックスは二人の前にしゃがみ込み、軽々と二人を抱え上げる。
「二人とも満足に動けないだろ。
歩くどころか、立つのもやっとだ」
アメリアとクラリッサは驚く間もなく、バックスの腕の中に収まった。
「しっかり掴まってろ」
次の瞬間、バックスは地を蹴り――
疾風のような速度で森を駆け抜けた。
木々が後方へ流れ、風が耳を裂く。
アメリアは思わず目を閉じ、クラリッサは息を呑むしかなかった。
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しばらくして、バックスは古びた山小屋の前に降り立った。
扉を押し開けると、埃っぽいが安全そうな空間が広がっている。
二人を床に下ろすと、バックスはローブを脱ぎ、静かに言った。
「まずは自己紹介の続きだ。
俺は人間じゃない。……バンパイアだ」
アメリアとクラリッサは一瞬息を呑むが、バックスは続ける。
「セレナとは……ここ何年かの付き合いになる。
ザルグが魔国を統一した時、俺は抵抗側にいた。
今もあいつとは敵同士だ」
クラリッサが眉をひそめる。
「……敵の敵は味方……ってこと?」
バックスは口元だけで笑った。
「その通りだ」
アメリアは胸に手を当て、深く息を吸う。
「じゃあ……あなたは私たちを助けに?」
バックスはアメリアの瞳をまっすぐ見つめた。
「セレナに頼まれたんだ。
“孫を……守ってほしい”とな」
アメリアの胸が強く締めつけられた。




