第14話「カイル」
霧深き森での出会いのあと、
その日はリィナの家に泊まらせてもらった。
木々に囲まれた静かな家は、まるで森と一体になっているようで、旅の疲れを優しく包み込んでくれた。
リィナは多くを語らなかったが、彼女の沈黙には確かな信頼が感じられた。
翌朝、私はルゥの背に乗り、リィナと共に蒼の谷を目指した。
空は曇り、風は冷たく、魔力の流れは不安定なまま。
ルゥが低く唸り、何かの気配を感じ取っていた。
「この辺り、魔力が濁ってる。何かがいるかも」
セレナが警戒を強める。
リィナは風の精霊に耳を澄ませながら、ぽつりと呟いた。
「ここで火と会うはず――風がそう告げてる」
セレナはその言葉に目を向ける。
「火……って、誰のこと?」
リィナは答えず、ただ前を見据えた。
その時、岩陰から突然魔物が飛び出した。
黒い鱗を持ち、牙を剥き出しにして襲いかかる。
「来た!」
セレナが竜の力を解放しようとした瞬間――
「下がってろ!」
鋭い声とともに、炎を纏った剣が魔物を切り裂いた。
現れたのは、赤いマントを翻す青年。
その瞳は鋭く、剣の先にはまだ熱が残っていた。
「誰……?」
セレナが警戒しながら問う。
青年は剣を収め、振り返る。
「カイル。魔物退治の途中だった。お前たち、こんなところで何してる?」
リィナは一歩前に出て、風をまといながら言った。
「私たちは深界へ向かってる。結界の核を探してるの。あなたの力が必要になるって、風が言ってた」
カイルは眉をひそめた。
「深界?あそこは今、魔力が荒れてる。普通の旅人が入る場所じゃない」
セレナはルゥの背に手を置きながら答える。
「私は竜の巫女。この世界の揺らぎを止めるために、核へ行かなきゃならない」
カイルはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「なるほど。巫女にエルフ、そして竜か。妙な組み合わせだが……嫌いじゃない」
リィナが風を操り、周囲の魔力を探る。
「この先、もっと強い魔物がいる。あなたの剣、借りてもいい?」
カイルは剣を肩に担ぎ、歩き出す。
「いいさ。俺も深界の異変が気になってた。ちょうどいい機会だ」
セレナは彼の背を見つめながら、静かに呟いた。
「これで、力が揃っていく。きっと、乗り越えられる」
こうして、三人と一匹の旅が始まった。
それぞれが異なる力を持ち、異なる過去を背負いながら――
深界の真実へと、歩みを進めていく。




