第36話:迫る影、目覚める血
エルミナ王城は深夜にもかかわらず、怒号と足音が響き渡り、完全な混乱に陥っていた。
「魔導感知! 二千の竜騎兵がこちらへ接近中です!!」
魔導兵の叫びに、周囲の兵士たちが一斉に顔を青ざめさせる。
王城の廊下を走る足音が重なり、指揮官たちが次々と集まってきた。
その瞬間――
床に刻まれた魔方陣が光を放ち、三つの影が転移してくる。
「遅くなったな」
重厚な鎧をまとった カイル元帥 が姿を現す。
「状況は最悪のようだな」
鋭い眼光を持つ エドガー大将 が続く。
そして最後に、長いローブを翻しながら 筆頭魔導士ミーナ が現れた。
彼女は転移の光が消える前に、すでに指示を飛ばしていた。
「全魔導兵、配置につきなさい! 王都全域に防護結界を展開します!」
魔導兵たちは慌てながらも、訓練された動きで魔力を集中させる。
「魔力循環、安定! 結界式、展開準備完了!」
「魔導炉、稼働率上昇中!」
城の上空では、すでに青白い光が脈動し始めている。
ザルグ軍の結界が王都を包み込もうとしているのだ。
ミーナは歯を食いしばり、両手を掲げた。
「急ぎなさい! あれが完成すれば……王都は完全に閉じ込められる!」
カイル元将軍が剣を抜き、兵士たちに叫ぶ。
「全軍、迎撃準備! 王都を守り抜け!」
エドガー将軍も続く。
「敵は魔王軍だ! 覚悟を決めろ!」
魔導兵たちが一斉に詠唱を開始し、城全体に光の膜が広がっていく。
だがその光は、上空の青白い巨大な結界に押し返されるように揺らいでいた。
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■ 王城奥深く――大母后の間
静寂に包まれた部屋で、銀髪の老女がゆっくりと目を開いた。
エルミナ王国の大母后――セレナ。
かつて世界を救った伝説の巫女にして、アメリアの祖母。
彼女は細い指を震わせながら、遠くの空を見つめる。
「……感じる……これは……ザルグ……」
その声はかすれているが、確かな恐怖と怒りが混ざっていた。
侍女が慌てて駆け寄る。
「大母后様!? どうかなさいましたか!」
セレナはゆっくりと首を振り、目を閉じる。
「……あの男が……ついに動いた……」
その言葉は、王都に迫る危機を誰よりも深く理解している者のものだった。




