第33話:月を覆う影
エルミナへ向かう街道。
アーサーは疲れ切ったクラリッサを背に乗せ、必死に馬を走らせていた。
そのすぐ横では、ロトがアメリアを背に乗せて並走している。
二人の少女は深い眠りに落ち、戦いの疲労がその小さな体を重くしていた。
「急げ……王都まであと少しだ……」
アーサーは自分に言い聞かせるように呟く。
だが――
ふいに、月明かりが消えた。
「……え?」
ロトが顔を上げる。
アーサーも空を見上げ、息を呑んだ。
「なんだ……あれは!」
夜空を覆い尽くす巨大な影。
黒竜の群れが空を埋め尽くし、その中心には魔王ザルグの姿があった。
二千の竜騎兵が月を隠し、夜をさらに深い闇へと変えていく。
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■ ザルグ軍・親衛隊
一番隊隊長デルタが、竜の背で腕を組みながらぼそりと呟く。
「……親方様はエルミナで何をなさるんだ?」
二番隊隊長Gが笑いながら答える。
「なんか昔いろいろあったみたいだぞ。いや〜楽しそうだな〜」
三番隊隊長クラッシュは拳を鳴らし、目を輝かせる。
「何にしろ戦闘があるんだろ? 楽しみだな……!」
その能天気な三人を、四番隊隊長兼参謀長アミバが睨みつけた。
「おい三馬鹿! お前らが陣形を崩すな! いちゃついてんじゃねえ!」
三人は慌てて姿勢を正す。
「アミバちゃん怖っ!」
「す、すみません参謀長!」
「ひぃ……!」
アミバはため息をつきながらも、隊列を整えるために指示を飛ばす。
その後ろでザルグがふっと笑った。
「……まぁまぁ、アミバ」
ザルグの視線が地上へ向く。
その瞳が鋭く細められた。
「おっ……セレナの末裔、発見だ」
アミバが驚く。
「魔王様……!?」
ザルグは手を上げ、全軍に命じた。
「全員、待機だ。お前らは来るな」
その声は静かだが、絶対の命令だった。
二千の竜騎兵が一斉に動きを止める。
ザルグは黒竜バルキリーの背から、迷いなく飛び降りた。
夜空を切り裂き、一直線にアーサーたちのいる地上へと落下していく。




