表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/97

第12話:風がざわめく前兆



レオニスの屋敷は、王都の喧騒から離れた静かな丘の上にあった。

石造りの回廊には風が通り抜け、庭の花々は朝露に濡れていた。


私はその一室で、静かに横になっていた。

ルゥは窓辺で羽を休め、外の空を見つめている。

身体の疲れは少しずつ癒えていたが、心のざわめきは消えていなかった。


扉がノックされ、レオニスが入ってきた。

彼の表情は、いつもより少し硬かった。


「セレナ。少し話がある」


私は身を起こし、彼の言葉を待った。


「王都の魔道士団が、北方の空に異常な魔力の波を検知した。

周期的に膨らんでいて、魔物の襲来が予見されている」


私は息を呑んだ。

「また……王都が狙われてるの?」


レオニスは頷いた。

「ただ、今回は何かが違う。

魔物の動きに“意志”がある。

誰かが、導いているような気配がある」


私は指輪に触れた。

銀の指輪は、静かに震えていた。


「調べてみる。私にしか見えないものがあるかもしれない」


レオニスは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに頷いた。

「君がそう言うなら、信じるよ。

ただ、無理はしないで」



「それとだが……グランディール家の件、報告が届いた」


「………」


「父グレゴールと妻マルグリット、両名とも正式に逮捕された。

監禁、不正魔導具の所持、王命の偽装、魔力抽出の違法実験――罪状は複数。

王家の裁定により、グランディール家は貴族籍を剥奪。

財産は凍結され、屋敷は王都管理局の手に渡った」


私は静かに目を閉じた。

胸の奥で、何かが音を立てて崩れていくのを感じた。


それは、憎しみではなかった。

ただ、長い間背負っていた重さが、ようやく地に落ちた感覚だった。


「……終わったのね」


レオニスは頷いた。

「君が立ち上がったから、風が動いた。

もう、誰にも君を閉じ込めることはできない」


私は窓の外を見た。

空は晴れていた。

けれど、その空は、以前よりも広く感じられた。


「ありがとう、レオニス。

あなたがいてくれて、私は……自由になれた」


ルゥが鳴き、風がそっとカーテンを揺らした。


その翌朝、私はルゥと共に村へ戻った。

辺境の空は、王都よりもずっと澄んでいた。

けれど、風の音がどこか不穏だった。


村人たちは変わらぬ笑顔で迎えてくれた。

けれど、私はすぐに村長ルイスの家を訪ねた。


「ルイスさん、少しお話を」


彼は暖炉の前で静かに座っていた。

私の顔を見ると、すぐに察したようだった。


「王都で、何かあったのか?」


私は頷いた。

「魔物の襲来が予見されているそうです。

でも、今回は何かが違う。

動きに“意志”がある。

それが、何なのか知りたい」


ルイスはしばらく黙っていた。

そして、ゆっくりと口を開いた。


「それなら、“霧深き森”へ行くといい。

そこには、エルフが住んでいる。

彼らは古の魔物と契約を交わした種族。

魔物の動きに関する記憶も、きっと何か知っているはずだ」


私は息を呑んだ。

霧深き森――村の北に広がる、霧に包まれた深い森。

誰も近づかないその場所に、答えがあるかもしれない。


「ありがとう、ルイスさん。行ってみます」


彼は静かに微笑んだ。

「気をつけてな。あそこは、人の理では測れん場所だ。

だが、お前なら風に選ばれる」


その夜、私はルゥの背に手を添えながら空を見上げた。

星は静かに瞬き、風は優しく吹いていた。


「ルゥ、次は“霧深き森”だよ。

魔物の真実を、私たちの翼で探しに行こう」


ルゥは小さく鳴き、私の肩に頭を寄せた。


そして、辺境の空は、再び旅の始まりを告げていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ