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薄幸・多幸・虎の巻 〜ハッピーだも〜ん〜 ②

「ほら! 抱きしめてますよ! さあハルカちゃんにするように! デレッデレに甘えてください!」

「……なんでこうなってんの?」

 二時間目が終わったばかりの教室で、私はハッピーに抱きしめられていた。

 椅子に座っている私の膝に座りながら、正面から抱きついてきている。距離が近くて少し恥ずかしい。

 今日は珍しくハルカは休んでいる。届いたメッセ曰く、アレが辛すぎて起きれないらしい。かわいそうに。

 そんなこんなで今日は基本ぼっちか、と思っていたら何故かハッピーがやって来た。

 どこから情報を得たのか不明だが、ハルカがいなくてノーハッピーな私をハッピーにしに来たらしい。

 私は思わず辺りを見回す。複数人が、こちらをチラチラ見ている。

「ねえハッピー……クラスに友達とかいないの?」

 抱きついてくる彼女を引き剥がそうとしながら、私は彼女に問いかける。

 するとキョトンとした顔で、ハッピーは首を傾げた。

「いますよ? カレンちゃんより多く」

「……余計な一言」

 そうか、私ってハッピーより友達少ないんだ。とちょっとがっかり。

 ハルカが異常なほどに私にベッタリだから他の人と話す機会がなくて少ないんだ。そうだ、全部ハルカのせいだ。ハルカのせいにしておこう。

(でもハルカって私より友達多いよね……なんでなん)

 はあ、とため息。結局私に何かしらの原因があるんじゃないか。

 別にいいけど。ハルカがいれば別にいいけど。

「……あいたっ」

 と、その時。急にハッピーが私の額を軽く叩いてきた。

 頬を膨らませながら、彼女はじっと私の目を見つめてくる。

「えと……私なんかした?」

「……ハピ」

(なんじゃそりゃ……)

 よくわからない鳴き声を発して、ハッピーはそっぽを向く。

 怒っている様子だし、何かしらの不満を私に抱いているのはわかる。けれど理由がわからない。

「……カレンちゃん、私が必死にハッピーにしようと頑張っているのにハルカちゃんのことばかり考えているんですもん」

 と、ハッピーが小さな声でボソボソ呟いた。

 意外だった。彼女の言葉を素直に受け取るならば、ハッピーはハルカに対して嫉妬していることになる。

 いや違う。ハルカに嫉妬しているんじゃなくて、ハルカのことを考えている私に怒っているんだ。

 ていうかどうやって私がハルカのことを考えているってわかったんだろう?

「えと……ごめんね? ハッピーちゃん……」

 私は一応謝る。だが、ハッピーは変わらずそっぽを向いている。

 なのに変わらず私を抱きしめているから、なんていうか居心地悪い。

「……キスしてくれたら許します」

「……は?」

 突然、訳のわからないことを言い出した。

 空耳じゃない。はっきりと聞こえた。私の耳がしっかり捉えた。

 彼女が、ハッピーが、私にキスを求めてきた。

 どういうことなんだろう。またいつものように私を揶揄っているのかな。

 けれど、先ほどから見せている嫉妬心。ジェラシー。それらを踏まえると──

(え……え……!?)

 途端に心臓の動きが速くなる。ドキドキしていると伝えるように早鐘を打つ。

 顔に熱を帯びるのを感じる。羞恥心で脳が沸騰しているかのような感覚。

 先日の大好き発言。それから、テレビの占いが言っていた彼女が出来るという予言。

 私は少し俯いていから、チラッとハッピーを見る。

 いつの間にかこちらに顔を向けていた彼女は、とても照れくさそうに頬を染めながら、濡れた瞳で私を見つめていた。

 まるで、恋する乙女のような目。そんな目で、私をじっと見つめてくる。

 ペロッと軽く舌を出して、ハッピーは己の唇を少し舐めると──

「ダメ……ですか……?」

 甘えるような声で、小さくも力強い声で、そう呟きながら顔を近づけてきた。

 彼女の熱い吐息が私の鼻をくすぐる。喉で、頬で、耳で感じる激しい彼女の息遣い。

 ゆっくりと彼女は、私の胸に己の胸をピタッと当てた。ハッピーの心臓の音を、自らの心臓で感じる。

 お互いの心臓がドキドキ鳴っていて、熱い吐息が混じり合って、唇と唇が目の前に──

「……ん」

 そっと目を閉じるハッピー。ほんの少し、ツンっと突き出される唇。

 所謂キス待ち顔。普段のハッピーからは感じられない、可愛さと妖艶に私の頭はクラっとした。

(どどど……どうしようどうしようどうしようどうしよう! どうすればどうすればどうすればどうすれば!)

 こんなのもう、するしかない。キスをする以外の選択肢がない状況になっている。

 キスをしない方がおかしいくらいのシチュエーション。ここで断ったら、人間じゃない。そんな気がする。

 更に心臓が速くなる。ドキドキドキドキ五月蝿い。うるさすぎる。

 止められない。止まらない。止めちゃいけない。

 私は、ゆっくりと、彼女の頬に向け手を伸ばして──

「……ぷっ」

「……ああぁ?」

 頬に手を添えようとしたら、ハッピーの吹き出す声が聞こえた。

「あ、やば……」

 やらかした。やっちまった。ハッピーが顔でそう語る。

 もしかしてだけど、もしかしたら、もしかしなくても──

「あ、あはは……ド、ドッキリ大成功です! なーんて……」

 冷や汗をかきながら、私からゆっくりと目を逸らすハッピー。

「えと……ほら! こうやってドキドキすることしたらハッピーになるかなって! カレンちゃん恋愛に飢えてそうですし!? あは! あははは! あははは……」

「天誅!」

「あいたっ!?」

 私は、ハッピーの頭にチョップをかました。

「あうう……ごめんなさい……揶揄っただけなんです……」

「全く……もう」

 私のドキドキを返せ、と叫びたい気分だった。

 なんとなくわかっていたのに。ハッピーは相手をハッピーに出来ると思ったらなんでもやる子だって。

 恐らくどこかしらから、私が占いの結果を気にしているという情報を得て、行動に移したんだろう。全く、ムカつく。バカにされたみたいでムカつく。

「はあ……」

 私が思わずため息をつくと、それとほぼ同時に学校のチャイムが鳴った。三時間目が始まることを告げるチャイム。

「ハピ!?」

 痛そうに頭を押さえていたハッピーが驚いたようにチャイムに反応し、急いで私の上から降りた。

「ううう……もう時間なんですね。まるでシンデレラな気分です……」

「なんでよ……」

 わざとらしく泣く演技をするハッピー。私がツッコむと、彼女はすぐに笑顔に戻って、私を抱きしめてきた。

「また休み時間になったらきますからね!」

 と、耳元で叫んでくる。

 耳が痛い。なんでこの子はこんなに声が大きいんだろうか。

「……その時はキス、してくださいね?」

「……へ?」

 ボソボソっと呟くハッピー。暖かい吐息と共に耳をくすぐる小さな声に反応し、心臓が思わずドクンと、高鳴った。

「それじゃあ一旦帰ります! バイバイです! カレンちゃん!」

 さっと私から離れて、元気にぴょんぴょんしながら、手を振りながら教室を出ていくハッピー。

「……あの子、なんなの」

 私は静かに呟いた。

 熱くなっている耳を、人差し指でそっと撫でながら、そう呟いた。

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