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夜明け前より瑠璃お姉ちゃん ①

「お疲れーカレンちゃん」

「あ、お疲れ……青柳さん」

 部活の練習試合終わり。体育館の壁に背をかけて座り込んでいる私に、ペットボトルを差し出しながら青柳さんが話しかけてきた。

 私は遠慮せずにペットボトルを受け取り、お礼を言ってから蓋を開け、一気に喉に流し込む。

 バカみたいに甘い飲料水。あんま実感してないけど、スポーツドリンクだから多分効果あるはず。

「ふぃ……やっぱカレンちゃんとはいい練習になるよ」

 青柳さんは首にタオルをかけていて、それで汗を拭っている。こちらには視線を向けずに、他のメンバーの練習試合を見ながら、彼女は話を続ける。

「それにしても……よくあんなにビーム撃てるね」

「えへへ……ビームだけ、だけどね」

 私たちが所属する部活は魔法少女部。簡単に説明するなら、変身して魔法で殴り合って先に相手の変身を解除させた方が勝ちっていうスポーツの部活。

 当たり前のように魔法とか言って、みんな武器を無から生成したり、ビーム撃ったり、光弾を放ったりしてる。

 魔法の使い方とかは正直よくわかってない。みんな、勘で使っていると言っていた。

 よくよく考えると意味わかんない部活だけど、みんな特に気にしてないからいいや。世界大会とかもあるし、いちいち疑問に思う方が違うんだろう。

「……よいしょ」

 と、青柳さんがゆっくりと私の横に腰を下ろした。

 ふぅ、と彼女は一息つき、私に少し寄り添ってくる。

「見て見てほら、あの子すごいよ……まだ一年だよね?」

「……あー、アムルちゃんね」

 青柳さんが指差す場所には、無数のビームを放ち続けるアムルがいた。

 ぶつぶつとアムルについて分析を始める青柳さん。私はそんな彼女を見て、思わずため息をつきそうになる。

 私は、なんとなく入った部活だからなんとなくやってるけど。青柳さんはいつも真面目だ。

 自分の事だけではなく、他の人の練習までしっかりと見て、その人の良い点と反省点をまとめていたりする。

 私にはできないし、する気が起きない。面倒くさいから。

「……あ、そういえばカレンちゃん」

アムルの練習試合が終わると同時に、青柳さんはこちらに視線を向け話しかけてきた。

「この前私が言ったこと……」

「あ、うん。意識してみたよ」

 彼女が言うよりも先に私は答える。

 すると、青柳さんは笑顔を浮かべ、両手をパンと叩いた。

「やっぱり? ビームの質が違かったもんね! なんか世界破壊するような……都合よく湧いて出た設定が活かされているような……それくらい前のビームと違った!」

「青柳さんのおかげだよ……私一人じゃ気づかなかったもん」

「えへへ……偉い偉い」

 すると、青柳さんはゆっくりとこちらに手を伸ばし、頭を撫でてきた。

 母のような優しさと、父のような力強さ。そして、姉のような親近感があるなでなで。非常に心地よく、私は思わず頭を彼女に預け、目を細めそうになる。

「……ハッ!」

「ん? カレンちゃんどうしたの……?」

 突如、私に突き刺さる視線。鋭い視線。刺すような視線。

 嫉妬、嫉み、憎しみ、恨みで出来た視線を感じる。

 私は思わず辺りを見回す。いや、見回す必要はなかった。

「……ジー」

「……やっぱりアムルちゃんか」

 思わずため息をつく。なんか私と青柳さんが一緒にいる時、あの子はいつも睨みつけてくる気がする。

「よし! 休憩終わり! 行こっか、カレンちゃん!」

「え、あ、うん……!」

 突然立ち上がり、背を伸ばす青柳さん。

 私も急いで立ち上がり、手をパキパキと鳴らしながら背伸びした。



「ふぅ……疲れた疲れた」

 放課後、通学路を私は一人で歩いていた。

 部活が終わった後、アムルに抱きつかれたり、アムルに騒がれたり、アムルに泣きつかれたりで大変だった。毎日校門前に着いてから離れるまでが長すぎると思う。

 それはそれでいいのだけど、部活帰りは勘弁してほしかった。早く家に帰りたい系女子だから、私は。

 そんなこんなで今日一日を思い返しながら、ゆっくりと帰路に着く。

「カレンちゃ………ん!」

 その時だった。私の目の前に、空から光り輝く女の子が。

 空から女の子が!?

「よっと……! 間に合ってよかった……」

「あ、青柳さんか……」

 その正体は私の友達、青柳瑠璃さん。光っていたのは魔法少女姿だったから。

 ビックリした。天空に浮かぶ王国を治めていた王族の末裔とかだったらどうしようかと思った。

 私はホッと安堵し一息つく。そんな私をみて青柳さんは首を傾げている。

「はいこれ、忘れ物してたよ?」

 と、彼女は言いながら、小袋を私に差し出してくる。なにこれ、紋章が入った特別な石でも入ってるのかな?

 私はそれを受け取り、中身を確認。なんとそれはスマホだった。嘘でしょ?

 こんなもの忘れるなんてあり得るのかな。私ってバカなんだ、とちょっと悲しくなった。

「ありがと……青柳さん」

 私は頭を下げながらお礼を言う。すると青柳さんは小さな声で笑いながら、頭を撫でてきた。

「あはは……意外と抜けてるんだから、カレンちゃんって」

(……すぐなでなでしてくる)

 嫌いではないけど、少し恥ずかしかった。ハルカのような友達としてのコミュニケーションとはちょっと違う撫で方だから。

 なんていうか、率直に言うなら、まるでお姉ちゃんのような、そんな撫で方。

 ハルカに撫でられている時はうひーって感じだけど、青柳さんに撫でられると嬉しい気持ちでいっぱいになる。

 部活中に撫でられた時も思ったけど、彼女の包容力は凄まじいと思う。

 みゆが彼女のことを瑠璃お姉ちゃんと呼ぶのもわかる気がする。

「今度からは忘れないようにね? わかった?」

 青柳さんは、人差し指を立てながら私に言う。

「う、うん……」

 小さく答える私。すると彼女はニコリとして──

「あはは……素直素直」

 小さく笑いながら、頭を撫でてきた。

 本当に気持ちがいい。このまま、ずっと撫でられていたい。

「それじゃあまた明日……カレンちゃん」

 私を撫で終えると、優しく微笑みながら、彼女は静かに別れを告げる。

 その直後、思いっきり地面を踏み締め、飛び立って行った。

「……なんか、なんかよかった」

 つい数秒前まで、彼女に撫でられていた自分の頭をさすってみる。

 彼女の柔らかく温かい手の温もりが、まだ残っているような気がした。

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