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青柳瑠璃

「今日もお疲れ様、カレンちゃん」

「ありがとう……青柳さん」

 放課後、誰もいない体育館で私たち二人は、スポーツドリンクを飲んでいた。

 壁に背をかけて、座り込んで、息を整えながら、必死に水分補給。すごい気持ちいい。

「ごめんね、居残り練習付き合わせちゃって……本当に助かりました。ありがとう、カレンちゃん」

「あはは……私で良かったらいつでも……」

 すぐ近くに置いてあったスマホを手に取り、私は時間を確認。

 現在時刻午後七時半。いい感じの時間だ。

 先生は八時まで練習していていいと言ってたけど、もう体力無いし、いいんじゃないかな。

「ふぅ……まだ時間あるけど、カレンちゃんどうする? もう流石に疲れちゃってるよね」

 飲み終えたペッドボトルを握りつぶしながら、青柳さんが話しかけてくる。

 まさかのお誘い。普段だったら無理して誘いに乗るけど、流石に疲れが限界に達しているので、私はゆっくりと頷く。

「う、うん……もう体力ないもん……」

「じゃあ自主練しよっかな。先帰る?」

 想定通りの答えだったのか、表示ひとつ変えずに、青柳さんは話を続ける。

 この時間一人で学校から帰るの怖いし、待ってよっかな。

「ううん……待ってる」

 私は首を左右に振りながら答える。すると、青柳さんはニコッと笑い──

「おけ」

 と呟いてから、自主練を始めた。

 必死な顔で、だけど楽しそうな顔で、自主練を続ける青柳さん。

 凄いなあと思う。憧れもする。真面目だなと、感心もした。

 優しくて、綺麗で、かっこいい。とても素敵な女性。

 私、青柳さんのこと、好きだな。



「誰もいない夜の校庭って結構怖いね、カレンちゃん」

「うん……」

 部活が終わり、私は青柳さんと二人で歩きながら校門を目指していた。

 とても静かな校内、誰もいない校庭。まるで、世界に私と青柳さんの二人っきりな感じ。

「ねえ……カレンちゃんって恋バナとかする?」

「え……急に?」

 突然、恋バナをしようとする青柳さんに、私はつい驚いてしまった。

 暇なのか、話を続かせるための話題作りなのか定かじゃないけど。いきなり恋バナはちょっと驚く。

「私はさ……最近気になる人いるんだ」

 腕を後ろで組んで、スカートを押さえながら、青柳さんは語り始める。

「可愛くて……つい甘やかしたくなっちゃって……一緒に居て楽しくて……」

 優しく、小さな声で、そう呟く青柳さん。

 暗闇でもわかるほどに、彼女のほおは赤く染まっていた。

「なんていうのかな……一緒に暮らしたいっていうか、一緒に成長したいっていうか……」

 何故か顔を背けながら、青柳さんは話を続ける。

「この人と一緒にいたら私、幸せになれるな……この人と幸せになりたいな……とか。うまく言語化出来ないけど、そんな感じで、特別な気持ちを抱いているんだ……」

 くるりと、一回転する青柳さん。

 私を見てニコッと笑い、じっと見つめてくる。

「そんな人……カレンちゃんにはいない? 一緒に居たい、一緒に生きたい、一緒に人生を進みたい……そんな人」

「私は……」

 青柳さんに言われたことを頭の中で反芻しながら、私は考える。

 一緒に生きたい人。それは、私に優しくて私を頼りにしてくれる人。

 一緒に居たい人。それは、一緒に居ると楽しくて、安心できる人。

 一緒に人生を進みたい人。それは、私が心の底から愛している人。

「ふふ……頑張って考えてるんだね」

 女神のような微笑みをしながら、青柳さんは私を優しく撫でてきた。

 気持ちのいい撫で方。全てを曝け出したい撫で方。何もかも委ねたい癒し。圧倒的包容力。

「カレンちゃん、私ね……告白しようと思うんだ、その人に」

「……そうなの?」

 青柳さんが告白したい相手。一体誰なんだろう。私の知らない頼れる男子とかかな。

「あはは……首傾げちゃって。可愛いね」

 青柳さんの撫で撫でが早くなる。自分でも気づかないうちに、首を傾げていたらしい。

「……あはは」

 ゆっくりと私の頭から手を離す青柳さん。ほんの少しだけ自身の手をいじると、私の方をじっと見つめてきた。

「私は……若井カレンちゃん。あなたのことが好きです」

「……え?」

 今、なんて言った。

 今、確かに聞こえた。

 青柳さんが好きだと言った。青柳さんが真面目な顔で、照れくさそうな顔で、私を見つめながら好きだと言った。

「最初はね、ただの友達だと思ってた。けどね……あはは、不思議なんだけど。次第にあなたに惹かれていったの。普段はダメダメだけど可愛くて、実力はあるからしっかりしていて頼りになって、気兼ねなく話せる大切な部活仲間……」

 ゆっくりと、手を差し出してくる青柳さん。

 いつもと変わらない笑顔を浮かべながら、されどキリッとした表情で、私を見つめながら彼女は言う。

「……付き合ってくれますか?」

 私は、何も言えないまま、彼女の手のひらをじっと見つめる。

 考えて、考えて、考えて──

 私はゆっくりと、彼女の手のひらの上に、自分の手のひらを置いた。

「わ、私で良かったら……その……お願いします……」

 恥ずかしさが自分の中で爆発する。顔が真っ赤になっているのを感じる。

 私も、青柳さんが好きだ。大好きだ。

 最初はただの友達だったけど、だったはずだけど。青柳さんが言っていた通りに、私もいつの間にか彼女に惹かれていた。

 青柳さんのことを考えると変にドキドキして、青柳さんといると普段の数倍落ち着ける。

 そんなドキドキと落ち着きが、きっと私の恋心だったんだ。一緒にいると好きでドキドキするけど、好きだからこそ一緒にいると落ち着ける感覚。熟年の夫婦のような感覚。

 私は、そんな感覚を教えてくれた、与えてくれる青柳さんが、好きだ。

「ほんと……断られたらどうしようかと思ってた。嬉しい……!」

 パァっと笑顔を咲かせ、青柳さんは私に抱きついてきた。

 彼女の柔らかい身体を全身で感じて、変なことを考えてドキドキしてしまう。

 それと同時に、彼女の持つ包容力が、私を癒して気持ちをリラックスさせてくれる。

「好きだよ……カレンちゃん」

「……私も。青柳さん」

 そして、私たちは徐々に唇を近づけ──

 軽く、されど情熱的に、初めてのキスを交わした。

「あは……こんな感じなんだねキスって。初めてしたよ。カレンちゃんは?」

「……私も、初めて」

「あは! よかった!」

 にこやかに笑い、頭を撫で撫でしてくる青柳さん。

 そして、私の手をぎゅっと握り、いつものように優しく微笑みながら、彼女は言った。

「じゃあ帰ろうか、カレンちゃん」

「うん……青柳さん」

 お互いの手を強く握りしめながら、お互いの顔を見つめ合いながら、私たちは校門へと向かっていった。

「ところで! 付き合うことになったんだから青柳さんじゃなくて、瑠璃って呼んでくれないかな?」

「えと……る、瑠璃……?」

「ふふ……ぎこちなくて可愛い可愛い」

「……うぅ。なんか恥ずかしい……」

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