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薄幸みゆ

 放課後、私は自分の部屋のベッドに寝転がっていた。

「この漫画面白いね! カレンお姉ちゃん!」

「そう……気に入ってくれてよかった」

 私は珍しく、来客を迎えていた。ハルカ以外であげたのは初めてかも。

 お客さんは薄幸みゆ。学校一可愛い自慢の妹。血は繋がってないけど。

「えへへ……なんかこうして一緒に同じ部屋に居ると、本当の姉妹って感じがしない?」

「うん? そうかな……よくわかんないけど」

 少女漫画片手に、こちらに視線は向けずに、ニコニコと話しかけてくるみゆ。

 そう言う私も彼女の顔は見ずに、テキトーにスマホをいじりながら話している。

 確かに、こう言うのが姉妹って関係なのかもしれない。顔も合わせず、なんとなく一緒にいて、テキトーな会話をするこの関係性。

「……じー」

 と、急にみゆが四つん這いになってこちらにやってきて、上目遣いをしながら私の顔を覗き込んでくる。

 そして、じーと静かに呟いた。

「……えと?」

 急な行動に、私は何も言えなくなる。

 何も言わずにじっと見つめてくるみゆ。どうすればいいんだろ、これ。

「……部屋でゴロゴロもいいけど、それじゃつまんないかも」

 と、言いながら、みゆは私に寄りかかるように寝転んできた。

 変わらずじっと見つめてくるみゆ。私もなんとなく、彼女を見つめ返す。

 わからない。今、何が起きている。私は、彼女に何を求められている。

「……ねえカレンお姉ちゃん。姉妹じゃさ、ここまでだよね」

 と、何も言わずに黙り込んでいる私にしびれを切らしたのか。みゆがゆっくりと口を開いてきた。

 ほんの少し頬を染めながら、ゆっくりと立ち上がり、彼女は再び四つん這いになる。

視線は一切変えずに、私の目を変わらずじっと見つめながら、みゆは動き出す。

「もっと……こう……親密な関係になりたいなぁ……」

 そっと手を伸ばしてくるみゆ。人差し指で、ゆっくりと私の顎に触れ、持ち上げてきた。

「親密特別格別濃密……そんな関係……」

 普段、一切見せない色気を最大限に発揮してくるみゆ。私はそんな彼女を見て、固唾を飲む。

 はあ、と熱い吐息。それが私の唇に触れた瞬間、私は思わずビクッと痙攣してしまった。

「ねえカレンお姉ちゃん……私、もっと仲良くなりたいな。大好きなんだもん……カレンお姉ちゃんのこと」

 目を潤わせながら、小さな事で声で呟くみゆ。

 静かな室内に響き渡る、みゆの甘い声。

 不思議と充満する、彼女の甘い髪の匂い。

「カレンお姉ちゃんはさ……私のこと、好き?」

 キョトンとした顔で、首を傾げながら尋ねてくるみゆ。

 私は、その問いに答えられない。答えはわかっているし、用意してあるのに、素直に答えられない。

 固唾を飲んで、頬につたる冷や汗を感じて、ドキドキと五月蝿い胸を手のひらで触れて。私は、じっとみゆを見つめる。

「カレンお姉ちゃん……?」

 首を傾げながら、じっと私を見つめ続けて、私の答えを待つみゆ。

 私はその視線に耐えられず、思わず顔を背ける。

 自分の気持ちに素直になれない。大好きだよって、正直に伝えられない。

 どうしてなのかわからない。伝えたいのに、伝えないといけないのに、伝えないから伝わらない。

 もう一度固唾を飲んで、私はみゆを一瞥。

 私は、彼女のことが好きだ。可愛いし、甘やかしたいし、もっとイチャイチャしたい。

 でもまだ、恋愛感情を抱いているとハッキリ認識できていない。

 そう言う関係になってもいいとは思っている。事実、少し前に彼女をそう言う目で見てドキドキし時もあった。

 どうして素直になれないのか。とりあえずの結論を出すならば、彼女を妹のように思っているからだろう。

 妹に恋愛感情を抱くだなんて、多様性の世の中ではありなのかもしれないが、私の中ではまだアウトの領域。

 即ち、血がつながってないとは言え妹のように思っているみゆをそう言う目で見て、彼女とそう言う関係になると言うことは、禁断の愛に等しいということで。

 だから躊躇っているのだろう。だから戸惑っているのだろう。彼女へ特別な思いを抱く、私のこの気持ちに。

「……別に、私がお姉ちゃんって呼んでるだけだから、気にしなくてもいいんだよ?」

 と、その時。心を読んだかのように、みゆが私にアドバイスをしてきた。

 そして、彼女は軽く、私の唇にキスをしてきた。

「だからこそ……この行動も、仲良し姉妹のちょっと過剰なスキンシップ、程度じゃ収まらないんだけどね……」

 唇をペロっと舐め、悪戯っぽく笑うみゆ。

 私の、理性が、崩壊、した。

 気づいた時には私は、みゆを力強く抱きしめていた。

 そして呟く。彼女の耳元で、彼女に聞こえるように、彼女に向け、彼女だけに向け──

「……大好き」

「えへへ……私もだよ」

 力強く抱きしめ返してくるみゆ。

 ぎゅっと、一回お互いを抱きしめ、そっと私たちは離れる。

 そして、じっと見つめ合う。お互いの顔を、目を、姿を。

「じゃあカレンお姉ちゃんは私の彼女って事で! でも変わらずカレンお姉ちゃんって呼ぶよ……そう呼びたいから」

「……うん、好きに呼んでくれていいよ」

「えっへへ……大好き!」

 そう言いながら、みゆは私に寄りかかってくる。

 肩にちょこんと頭を乗っけて、見上げるように私を見つめる。

「あ、瑠璃お姉ちゃんには内緒ね。多分反対するから」

「女の子同士だから……?」

「ううん。カレンお姉ちゃん基本ダメ人間だから」

「えぇ……」

 ホワホワして、とても嬉しい気持ちだったのに。最後の最後に冷や水をぶっかけられた気分。

 でもまあいいや、可愛いから。

「これからもよろしくねカレンお姉ちゃん……」

「……はいはい」

 私はため息をつきながら、寄りかかるみゆの頭を優しく撫でた。

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