終幕:私が好きなのは、私が選ぶのは──
「……はぁ」
温かいお湯に浸かりながら、浴槽に深く浸かりながら、私は小さくため息をついた。
なんとなくお湯を両手で掬ってみる。下手くそだから、あっという間に手のひらから全て漏れていく。
まるで、抑えられない恋心のように。
「……何言ってんだか」
自分で自分にツッコミ、私はもう一度ため息をつく。
どうしてお風呂ってこんなに気持ちいいんだろう。キャンセル界隈があるだなんて信じられない。
温かくて、リラックスできて、疲れが取れる感覚。
「……ふぃ」
私はお風呂の蓋を引き寄せ、そこに肘をつく。
そしてうつ伏せのようなポーズになって、またため息。
今、私の頭の中は、なんか変なことになっていた。
延々と思い浮かぶ彼女たちの顔。照れていて、嬉しそうで、恥ずかしげに、艶やかで、可愛らしい。
ここ数日。変なことばかり起きた。変なことというより、印象に残りすぎる出来事が。
人生で一番ドキドキして、人生で一番ソワソワして、人生で一番きゅんっとした。この一週間。
友達である五人と、短くも濃厚なイベント。思い返すだけで、恥ずかしさと嬉しさが私の中で混沌とする。
私は、どう思っているのだろうか。
なんとなく気づいている。あの子のことが好きだって、愛しているんじゃないかって、なんとなく気づいている。
いつから抱いていたかわからない恋心。いつから携えていたのかわからない胸のときめき。彼女のことを考えるだけで、心臓が早鐘を打って高鳴る。
ふと思い出すのは、あの占いの言葉。
一週間以内に彼女が出来るでしょう。という占い結果。
彼氏じゃなくて、彼女と言ったあの占い。
もしも、もしもそれが的中しているんだとしたら。私の未来を予言していたのだとしたら。
私は、私は──
「……はぁ」
浴槽に入ったまま背伸びをして、私はため息をつく。
ゆっくりと天井を見上げ、上に付いている水滴を見つめながら、静かに呟く。
「……好きなのかな」
お湯に浸かっているからか、自身の発言が照れ臭すぎたのか。私のほおが赤く染まるのを感じる。
自分に嘘はつけない。いや、つけるけれど、本当の気持ちを誤魔化すのはとても難しい。
何回か考えないようにした。別のことを考えて忘れようともした。けれど、胸に残る切ないこの思いを消し去ることはできなかった。
思い返すのは、あの人たちの魅力。
アムルの甘え上手なムーブ、時折見せる妖艶さ。可愛い後輩だけれど、私を好いてくれているのがすぐにわかる大胆なあの行動。
ハッピーの元気すぎるが故に行う、過剰な愛情表現。どこからどこまで本気なのかわからないけれど、それ故に感じる絶妙な親近感。
みゆの醸し出す、愛おしさと母性本能を刺激するあどけなさ。ずっと撫でてあげたくて、ずっと守ってあげたくなる小動物のような彼女。
青柳さんの何もかも委ねたくなる、同学年とは思えないお姉さんパワー。実際に姉を持っていないからわからないけれど、優しくて嫌な顔ひとつせずに面倒を見てくれる。
大切な親友だからこそ、何もかも受け入れたくて何もかも受け入れて欲しい、ハルカへの不思議な感情。ずっと一緒に、ずっと隣に居たいと思える、大事な親友。
私が好きなのは、私が選ぶのは──




