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みゆさえいればいい。 ②

「楽しみ楽しみ……えへへ」

「……そーだね」

 アムルと青柳さんと学校で別れた後、私とみゆは一緒に電車に乗っていた。

 私は何故か、みゆを膝に乗せながら座席に座っている。ほんのちょっぴり重い。

 ニコニコしながら、ほんの少し足をばたつかせているみゆ。幼さ全開のその行動は可愛らしいけれど、少し恥ずかしい。

 私たち、周りにはどう映っているんだろう。仲の良い姉妹? 同じ制服じゃなければそう映っていたかもしれない。

 幸い車内に人は少なく、私の座る座席は私以外誰も座っていなかった。

「あ、そろそろ着くよ。カレンお姉ちゃん」

 みゆがビシッとモニターを指差す。そこには、目的地の駅名が表示されていた。

「ほんとだ……思ってたよりも早く着いたね」

 私がそう呟くと、みゆはぴょんッと膝から軽く飛び降り、私の手を取った。

「よし行こう! カレンお姉ちゃん!」

 ぎゅっと手を握って引っ張ってくるみゆ。私はそれに身を任せながら、ゆっくりと立ち上がった。



 ショッピングモールの中心。私は、みゆと手を繋ぎながら歩いていた。

「さてと……早速探す?」

 私がそう聞くと、彼女は上目遣いでこちらを見ながら、小さくゆっくりと頷いた。

「探そう……瑠璃お姉ちゃんへの誕生日プレゼント……」

 自信なさげで小さな声だったが、どこか力強さを感じた。

 ぎゅっと、みゆが私の手を強く握ってくる。

「ありがとうカレンお姉ちゃん……付き合ってくれて。私一人じゃ多分ここまで来れなかったよ……」

 そう言ってみゆは歩き出す。私は黙って彼女について行く。

 キョロキョロと辺りを見回しながら歩くみゆ。どこのお店に入ろうか、迷っているらしい。

「青柳さんの好きなものとかは……?」

 私は思わず彼女に提案する。すると、少し困ったような表情で私を見てきた。

「好きなものはね……喜んでくれるとは思うの。だけど……ビックリさせたいの瑠璃お姉ちゃんを……」

「はー……なるほど……」

 サプライズを仕掛けたいのかな? それって渡す物じゃなくて、渡す方法で考えるべきだと思うけど。

 いや、普通に渡して中身で驚かせるってことか。それはかなり難しい気がする。

 あの青柳さんが驚いて、尚且つ喜んでくれるもの。

 何だろう。全然思いつかない。

「とりあえずあのお店、入ってみない?」

 私は雑貨屋を指差しみゆに伝える。すると、真面目な顔をしながらみゆは頷いた。

 ゆっくりと、一歩一歩しっかりと踏み締めながら、私たちは雑貨屋へと向かう。

 入り口にはたくさんのぬいぐるみ。カエルとかコンニャクとかアニメのキャラクターとか、多種多様。

(ぬいぐるみかぁ……案外いいかも)

 そんな風に考えている私とは正反対に、みゆはぬいぐるみを一瞥もせずに、店内へと足を進めた。

 私も急いで彼女を追いかける。手を繋ぎっぱなしだから、なるべく彼女と歩調を合わせて。

「んむぅ……これも違うあれも違うそれも違うどれも違う……うーん……」

 突然立ち止まり、首を傾げ唸り始めるみゆ。

 相当悩んでいるようだ。何か力になれないかなと思い、私は辺りを見回す。

 カエルのキーホルダー、カエルのマグカップ、カエルのデカいフィギュア、カエルのシャツ、カエルのビニール袋、カエルのクリアファイル、カエルの万年筆。

 カエルコーナーなのか、カエルグッズが異様に多い。

(うう……デフォルメされているとはいえ……やっぱりカエル苦手……)

 なるべく視界に入れないように、私は少し俯き、みゆの背中を見つめながら歩く。

 変わらずキョロキョロし続けているみゆ。これは長くなりそうだな、と私は心の中だけでついため息をついた。

 それから数十分が経った。私とみゆは少しゲンナリしながら、見つめ合う。

「見つかんないなあ……カレンお姉ちゃん、他のお店も行っていいかな?」

「……うん、いいよ」

 二人同時にため息をつき、私たちは店を出ようと歩き出す。

 みゆはお目当ての物が見つからなかった残念さで、私はカエルに囲まれた精神的ショックで、もう一度ため息をつく。

「次はどこ行こうかな……」

 店の入り口まで戻ると、みゆがそう呟きながらキョロキョロし始めた。

 私は何となく、入り口に置かれたぬいぐるみコーナーを見る。ここはカエル少なめなのに、なんで店内はあんなにカエル推しだったんだろう。

「ん……?」

 ふと、一つのぬいぐるみが目に入った。

 それは、棒付きアイスのぬいぐるみ。水色だから、恐らくソーダ味。

「……あ!」

 その時、私は思い出した。青柳さんが異常に棒アイスを愛していることを。

「どうしたのカレンお姉ちゃん……?」

 心配そうに私を見つめてくるみゆ。私はつい彼女の肩に手を置いて、ぎゅっと握った。

「見つけたよみゆちゃん……! アレとかどうかな?」

 私はビシッと指で差す。数秒前に見つけた棒アイスのぬいぐるみを。

「こ、これは……!」

 みゆが衝撃を受けた声を出す。それとほぼ同時に、握っていた手を離し、小走りでぬいぐるみの元へと向かう。

 ひょいッと手を伸ばす。しかし、棒アイスのぬいぐるみは存外高いところに置かれており、みゆの身長ではそれに届かなかった。

「……えと」

 ゆっくりと私の方へ振り返るみゆ。その顔は、この世の終わりを見たかのような、とてつもなく絶望した顔になっていた。

 私はつい笑いそうになるが、それを堪えて少し早歩きで彼女の元へと向かう。

 そして、棒アイスのぬいぐるみを手に取り、彼女に渡した。

「おお……!」

 文字通り、目を星のような形に変え輝かせるみゆ。どうやら気に入ったようだ。

「これなら喜ぶし驚くよ瑠璃お姉ちゃん……! 誰だろう、棒アイスをぬいぐるみ化した天才……!」

 割とゲーセンで似たようなもの見るけどね、と私は思ったけどそれを口には出さずに、何となく頷いた。

「これにしようカレンお姉ちゃん……! 完璧だよパーフェクトだよ!」

 ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめるみゆ。そんな彼女が可愛くて、私はつい、頭を撫でてしまった。

「それじゃあ買ってくるね!」

 ぬいぐるみを片手で持ち、グッとサムズアップしてくるみゆ。

「一人で買える?」

 一人で店内に入ろうとするみゆに、私は思わず問いかける。

 すると彼女は呆れた顔をしながら、振り返って言った。

「ちょっと子供扱いしすぎだと思う……」

「あ、ごめんつい……」



「えっへへ……これは良いものだよ素晴らしいよ……! ありがとうカレンお姉ちゃん!」

「……うん、よかったね」

 某アイスのぬいぐるみを抱きしめながら、上目遣いで礼を伝えてくるみゆ。

 素直にありがとうと伝えられ、とても嬉しい気分になる。普段ギャーギャーうるさいアムルやハッピーと違ってこの子は癒しだ。オアシスみたいなもの。

「じゃあ帰ろうか! これを渡した時の瑠璃お姉ちゃんの反応が楽しみだよ……!」

 ぎゅっと私の手を握り、歩き始めるみゆ。

 私は彼女の手を握り返し、歩調を合わせ歩き始める。

 特に寄り道とかはせずに、私たちはまっすぐに駅へと向かった。

 駅内に入って、スマホを乗車券代わりに改札にかざし、ホームで電車を待つ。

 意外にもホームで待っている間に会話はなく、電車が来ても何も喋らずに、私たちは乗り込んだ。

 瞬時に車内を見回す。人が少ない、ていうか一人もいない。ラッキー。

 私たちはすぐ近くの席に座ることにした。行き同様、まずは私が座って、その上にちょこんとみゆが座る。

 座るとほぼ同時に電車の扉が閉まる。そして、ゆっくりと動き始めた。

 静かな車内にガタンゴトンという音が鳴り響く。時折差し込む太陽光がとても眩しい。

「……よいしょ」

 すると、みゆが私の上に座ったまま姿勢を変え、真正面から抱きつくような姿勢になって話しかけてきた。

 きゅっと私の身体を抱きしめ、ピタッと身体をくっつけてくる。

 ドキドキと、みゆの心臓が高鳴る音が私の全身に鳴り響いた。

「今日はありがと……カレンお姉ちゃんのおかげで、瑠璃お姉ちゃんを喜ばせられそうだよ」

「えと……お役に立てて何よりです……」

 何故か濡れたような瞳で、みゆは私をじっと見つめてくるみゆ。

 じっと、力強い眼差しで、私の目を見つめている。

「カレンお姉ちゃん……頼りになるよね。優しいし、一緒にいて安心するというか……」

 火照ったような顔をしながら、そう呟くみゆ。

 私の心臓の鼓動が少し早くなった。なんか、妙にドキドキする。

「もちろん、瑠璃お姉ちゃんとかハルカちゃんとかと一緒に居てもそう感じるけど……なんていうかね、よくわかんないけど……カレンお姉ちゃんだけ、ちょっと違うの」

 少し俯きながら、そう語るみゆ。

 なんだか少し不思議な雰囲気。どう表現すればいいのかわからないドキドキ。まるで、禁断の愛を伝えられているような気分。

「私ね……カレンお姉ちゃんの事、大好きだよ」

 みゆがそう呟くと同時に、電車がトンネル内に入り、車内が一瞬だけ暗くなった。

 それと同時に、私の頬に柔らかい何かが触れる。

「えへへ……しちゃった……」

 己の唇をぺろっと舐め、悪戯っぽく笑うみゆ。

 私はそんな彼女を見ながら、そっと自分の頬に触れた。

「みゆちゃん……もしかして今──」

 私が喋ろうとしたその時、みゆはそっと人差し指を私の唇に添え──

「瑠璃お姉ちゃんには内緒だよ?」

 と、ウィンクをしながら静かに呟いた。

「……えと」

「あ、ほら! もうすぐ駅着くよ! 降りる準備しよ! カレンお姉ちゃん!」

「あ、え、うん……!」

 車内でアナウンスが流れた。その瞬間、みゆは興奮したようにモニターを指差しながら立ち上がる。

 そしてくるっと一回転してから、私に手を差し伸べてきた。

「行こっ……カレンお姉ちゃん」

「うん……」

 差し出された手を取り、私は急いで立ち上がる。

 ぎゅっと握られる手。先程までは、その動作に何も感じなかったのに。

 何故か今は、手を握られただけで、自分でも驚くくらいドキドキしている。

 頬の一部分が真っ赤に染まる感覚。物凄い熱を帯びている感覚。そこは、先程柔らかいものが当たった箇所。

 胸のドキドキを抑えるように、手を繋いでいるみゆに伝わらないように、私はこっそりと深呼吸をしながら、必死に落ち着きを取り戻そうとした。

(……はぁ、もう)

 みゆを一瞥すると、彼女はニコニコしていてとても楽しげにしていた。

 私はそんな彼女を見てつい、微笑みながらため息をついた。

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