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プルミエ♡アムル ②

「カレンさん……どうします?」

「うーん……待つしかないよね」

 放課後。部活が早めに終わった私たちは、倉庫に閉じ込められていた。

 こんな漫画とかアニメみたいなこと本当に起こるんだと、つい感心したくなる。

 そんな事をしている余裕はないけれど。

「出れそうな場所はありませんね……うう、体育館倉庫の匂い苦手なのに……」

「歩き回ると余計ほこりが舞うんじゃない?」

「……じゃあ座っておきます」

 私の指摘を受け、アムルは大人しく、ちょこんと跳び箱の上に座った。ちなみに私はマットの上に座っている。

「カレンさん……スマホ持っていたりしないんですか?」

「……無い。外にあるよ」

 ボーッと天井を見つめながら、私はアムルと会話をする。

 天上のシミでも数えていようかな。と思ったけれど、二、三個数えたら飽きた。

 私はそのままグデーとマットに寝転ぶ。そして、ため息をひとつ。

 鍵を閉める時に普通気づくと思うんだけどな。名も顔も知らぬ犯人にムカつきながら、私はもう一度ため息をついた。

 そのまま寝返りを打──

「……ん?」

 寝返りを打とうとしたら、何か柔らかいものに手が当たった。

 なんとなく握ってみる。柔らかくて、弾力があって、温かい。

「カレンさん……大胆ですね」

「……アムルちゃんか」

 私が握っていた物の正体はアムルの太もも。もう一度だけ軽く握ってから、私は手を離しながら起き上がった。

「よっと……さっきまで跳び箱の上に居なかった?」

「一人は寂しいので来ちゃいました……えへへ」

 照れくさそうに笑いながら、少し俯くアムル。その顔は何故か、ほんのりと赤く染まっている。

 そして私を一瞥して、唇を一度舐めてから、マットに手をつきながら、ゆっくりとこちらに這い寄ってきた。

「……カレンさん。今、二人っきりですね」

 小さな吐息を吐きながら、じっとこちらを見つめて呟くアムル。

 ゆっくりと、少しずつ、私の近くに寄ってくる。

「ハルカさんは休みだし……ハッピーはバカだから多分来ないし……みゆちゃんは運動部じゃないし……瑠璃さんは忙しいだろうし……何より外からなんの音も聞こえない……」

 ぶつぶつと何かを呟きながら近づいてくるアムル。私は思わず後退するが、すぐに壁に阻まれた。

「ねえカレンさん……なんか……エモいって感じしません? 倉庫に閉じ込められた先輩と後輩……何も起きないはずがありません……」

「……えと? アムルちゃん?」

 私の目の前まで顔を近づけるアムル。彼女の熱い吐息が、私の鼻をくすぐる。

 小さなリップ音。少し大きめな衣擦れ。ドキドキと聞こえてくるアムルの鼓動。

「カレンさん……私、自分を止められる気がしないんです……」

 そっと、私の頬に手を添え、目と目を合わせそう呟くアムル。

 私の心臓がドクンと大きく鳴る。早鐘を打ち始め、私にドキドキを伝えてくる。

 普段のアムルからは想像できない妖艶さ。つい、そういう目で見てしまう。

 四つん這いの姿勢になっているからか、胸元から薄紫色の下着が見える。

 濡れた瞳は暗めの倉庫内でも輝いていて、キラキラとしている。

 匂いがする。制汗剤と、シャンプーの甘い香り。アムルが動くたびに揺れるツインテールから、それが漂ってくる。

 スベスベしていて、柔らかく細い身体。私の目の前で艶めかしく動く唇。

「私……何度も言ってますよね……カレンさんが大好きだって……」

 アムルは姿勢を変え、膝立ちをする。上から私を見下ろすようにして、じっと見つめてくる。

「あはは……窓もないしクーラーもないし……暑くなってきません? 運動した後ですし……」

 全身を火照らせたアムルの額から、一雫の汗が落ちる。

 それは私の口元に落ちてきて、私はそれをつい舐め取ってしまう。とてもしょっぱい味、アムルの汗の味。

 彼女を見つめながら、ゴクンと私は固唾を飲んだ。

「暑いんですカレンさん……私、今とっても暑い……熱い……」

 そのままゆっくりと、四つん這いの姿勢に戻るアムル。

 私と視線を合わせ、じっと見つめてくる。

 ドキドキする。心臓がとんでもない速さで動いている。

 アムルの汗の匂い。アムルの誘惑。アムルの瞳。全てが私をクラクラとさせる。

 きゅっと口を閉じて、アムルは私を見つめる。

「……カレンさん」

 彼女は一度少しだけ俯いてから、再び私をじっと見つめてきた。

 アムルの鼓動が早くなったのを感じる。それに合わせて、私の鼓動も早くなる。

 私とアムルの汗の匂いが、私たちの鼻を刺激する。

 お互いが口から吐く熱い吐息が、空で交わる。

 より近づく唇と唇。目と目。手と手。

 アムルが私の手に指を絡めて、ぎゅっと握ってくる。

「カレンさん……お願いですから……私の気持ちに答えてくださいね……」

 私の耳元でそう囁くアムル。私は思わず全身がゾワッとして、ビクッと痙攣してしまう。

 耳元に残るアムルの吐息の暖かさと、耳たぶのほんの少しかかった彼女の唾を感じながら、私は彼女を見つめる。

 アムルも私を見つめてきている。見つめること数秒、私は恥ずかしくなってつい、彼女から顔を逸らした。

 自分の心臓が奏でるドキドキを必死に抑えようと胸元に左手を置く。けれど止まってくれない。

 荒んだ息を整えるように深呼吸をしようとする。けれど、息を吸うたびに何故か、私の呼吸はより乱れていく。

「私……カレンさんのこと……」

 小さくも力強い声で、はっきりと聞こえるアムルの声。

 なんとなく察する。彼女の次のセリフを。

 それを想像して、私は顔が真っ赤になった。

 まさかこれは、やっぱりこれは、絶対にこれは──

「カレンさんのこと……あ──」

「アムルちゃん! カレンちゃん! いる!?」

「みゃあああああああああ!?」

「わああああああああああ!?」

「え!? ちょ!? な、なに!?」

 突然倉庫の扉が勢いよく開いて、誰かが入ってきた。

 私とアムルはそれに驚き、同時に飛び上がり同時に奇声を発してしまった。

 すぐに扉の方を見る。そこには、驚いた顔の青柳さんが立っていた。彼女の背後には何故かみゆも居る。

「えと……二人とも大丈夫?」

 苦笑いをしながら、首を傾げる青柳さん。

 やばい。恥ずかしい。顔が真っ赤になっている。ものすごく熱い。

 私はチラッとアムルを見た。恐らく、私よりも顔を真っ赤にしながら俯いていた。

「あ、カレンお姉ちゃんいた! 放課後一緒に買い物行く予定だったよね……遅いから心配しちゃった……」

「あ……そういえばそんな約束してたね……」

 ということは、私がいつまで経っても現れないから心配したみゆが青柳さんに相談して、探してくれたってことかな。

 ラッキーだった。下手すればアムルと一夜を過ごすことになっていたかもしれなかった。

 もちろん単純に夜まで二人っきりで閉じ込められるという意味だけで、あっちの意味はない。

(……多分)

 私は恥ずかしさを誤魔化すように首を左右に振り、急いで立ち上がる。

 そして、顔を真っ赤にしながら俯いて、ぶつぶつと何かを呟いているアムルに、顔を背けながら手を差し伸べる。

「……ほら、行こう。アムルちゃん」

「……はい」

 私を一瞥すると、すぐにプイッとアムルは顔を背け、私の手を握ったまま立ち上がった。

「みゆちゃん、カレンちゃんとどこに行くの?」

「んー? 瑠璃お姉ちゃんにはなーいしょ!」

 仲良さげに会話しながら歩き出す青柳さんとみゆ。

 私とアムルも、それに続いて倉庫を出る。

 するとその瞬間、アムルがきゅっと、私の手を強く握ってきた。

「……カレンさん」

 小さな声で呟くアムル。私はついドキッとしてしまう。

 そして、ゆっくりと彼女の方へと視線を向けた。

 相変わらず顔を真っ赤にしたまま俯いているアムル。やがて彼女はゆっくりと顔を上げ、上目遣いで私を見ながら呟いた。

「……今日のこと、忘れないでくださいね」

「……う、うん」

 私の頬に熱が帯びる感覚。きっと、今の私は顔が真っ赤だ。

 脳内に思い浮かぶのは、妖艶なアムルの表情。

 アムルが何を言おうとしてきたのか、なんとなくわかっている。察している。

 もしかしたら、もしかしたら勘違いかもしれないけれど。私が意識しすぎなのかもしれないが。

 心臓がドキンドキンしすぎて胸が痛い。ついでに、汗を流しすぎたのか頭も痛い。

「えへへ……カレンさん」

 突然、ぎゅっと抱きついてくるアムル。彼女の柔らかい胸が、私の腕に押し付けられる感覚。

「いつかちゃんと言いますから……待っててくださいね」

 小さな声でアムルは呟く。

 私はそれに何も返せず、そっぽを向きながら静かに頷いた。

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