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第19話:初めてのデート

週末、凪人は少し緊張した面持ちで駅の前に立っていた。今日は美月と初めてのデートの日。普段は無関心を装っている彼だが、さすがに今日は少しそわそわしていた。


「デートなんて、やっぱり慣れないな…」


凪人は時間を気にしながら、美月を待っていた。いつもなら冷静でいることができる彼も、今日だけは少しだけ落ち着かない。そんな中、ふと声が聞こえた。


「櫻井くん!」


振り返ると、美月が駅の前に現れた。彼女はいつもと違い、シンプルでありながらも華やかな私服を身にまとっていた。清楚なワンピースに、小さなアクセサリーが彼女の魅力を引き立てている。


「…似合ってるな」


凪人は思わず呟いたが、美月は微笑んで凪人の隣に立った。


「ありがとう、櫻井くん。今日、すごく楽しみにしてたんだ」


その言葉に、凪人は少し照れくさそうに目をそらした。


「俺も、まあ…」


二人は少し照れながらも、自然に並んで歩き出した。今日は特に大きな予定を立てているわけではなく、ただ街中を歩きながら買い物を楽しむだけのデート。それでも、二人にとっては特別な一日になる予感がしていた。


「まず、どこに行く?」


凪人が尋ねると、美月は少し考えた後、微笑んで答えた。


「せっかくだから、ショッピングモールに行ってみない?最近、欲しいものがあって…」


「分かった。じゃあ、行こうか」


二人はショッピングモールへと向かいながら、街中を歩いていった。普段、クールで無口な凪人だが、美月との時間を過ごすことで少しずつリラックスしてきている自分に気づいていた。


ショッピングモールに到着すると、美月は目を輝かせながら店を見渡していた。


「このお店、ちょっと見ていいかな?」


美月が指差したのは、かわいらしい雑貨やアクセサリーが並ぶお店だった。凪人は特に興味があるわけではなかったが、美月が楽しそうにしているのを見て、自然と一緒に店に入った。


「これ、どう思う?」


美月が小さなアクセサリーを手に取り、凪人に見せてきた。彼は少し戸惑いながらも、それをじっくりと見つめた。


「…お前には似合うと思う」


その言葉に、美月は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「本当に?じゃあ、買っちゃおうかな!」


美月が楽しそうに買い物をしている姿を見て、凪人は少し安心した。彼にとって、デートというものがどういうものかはよくわからなかったが、少なくとも美月が楽しんでくれていることは感じ取れた。


次に二人は、服屋に立ち寄った。美月が店内を見て回っている間、凪人は少し離れた場所で待っていたが、ふと美月が凪人の方を見て話しかけてきた。


「櫻井くんも、何か欲しい服とかないの?」


「俺は別に…」


凪人はそう答えたが、美月は何かを思いついたように笑みを浮かべた。


「それなら、一緒に選ぼうよ!櫻井くん、きっともっとかっこいい服が似合うと思う」


その言葉に、凪人は少し驚いたが、なんとなく美月に逆らうことができずに服を選ぶことになった。美月がいくつかの服を手に取って凪人に見せると、彼はそれを無表情で眺めていた。


「…俺に似合うか?」


「うん、きっと似合うよ!」


美月の自信に満ちた笑顔に、凪人は仕方なく試着してみることにした。しばらくして、彼は試着室から出てきた。シンプルなTシャツとジャケットの組み合わせだったが、それが凪人のクールな雰囲気にぴったり合っていた。


「…どうだ?」


少し恥ずかしそうに言う凪人に、美月は目を輝かせて答えた。


「すごく似合ってる!櫻井くん、かっこいいよ!」


その言葉に、凪人は少し照れくさそうに顔を背けた。


「そうか…なら、買うか」


買い物を終えた後、二人は近くのカフェに立ち寄った。美月は楽しそうにアイスコーヒーを飲みながら、ふと凪人の方に目を向けた。


「今日は、本当にありがとう。櫻井くんと一緒に過ごせて楽しかったよ」


「俺も、まあ…楽しかった」


凪人は素直に言葉にするのが恥ずかしかったが、美月との時間を確かに楽しんでいた。彼女の明るさと優しさが、凪人の心に少しずつ染み込んできていたのだ。


「また、こうして一緒に出かけられたらいいね」


美月が優しく微笑んで言ったその言葉に、凪人は軽く頷いた。


「…そうだな。また出かけよう」


凪人は静かに頷きながら、美月に応えた。彼自身、普段は誰かと一緒に過ごすことに不慣れで、特に女の子と出かけるなんて考えたこともなかった。だが、美月との時間はどこか特別で、自然とリラックスできるのが不思議だった。


カフェの窓から外を眺めながら、美月はふと呟いた。


「櫻井くんって、本当に優しいよね」


その言葉に、凪人は驚き、思わず美月を見つめた。


「…俺が優しい?」


「うん。たぶん、普段は気づかれてないかもしれないけど、私は知ってるよ」


美月はそう言って、柔らかい笑顔を浮かべた。彼女の言葉には、単なる社交辞令ではなく、凪人の本質を理解しているような確信があった。


「いつもみんな、櫻井くんの見た目に誤解してるけど、私はずっと前から気づいてた。櫻井くんは本当はすごく思いやりがあって、みんなを見守ってるんだって」


凪人はその言葉に一瞬言葉を失った。自分が今まで他人からどう見られているかはよくわかっていたし、それに対して特に反応もしないようにしてきた。だが、美月が自分の本当の姿を見てくれていたことに、心の奥で何かが揺れ動いた。


「…お前、すごいな」


凪人はぼそりと呟いた。美月の言葉は真っ直ぐで、凪人の心に深く響いた。


「そんな風に思ってくれるなんて、ちょっと嬉しい」


彼は照れくさそうに、しかし素直に答えた。美月は優しく微笑み、その場の静かな空気が二人の距離を縮めていくようだった。


夕方になり、二人は駅へと向かう帰り道を歩いていた。デートも終わりに近づき、二人ともどこか心地よい疲れを感じていたが、それは悪い意味ではなかった。


「今日は、ありがとう。すごく楽しかったよ」


美月が静かに凪人に感謝を伝えると、彼は軽く頷いた。


「俺も、悪くなかった。お前と一緒なら、またどこか行ってもいいかもな」


凪人の言葉に、美月は嬉しそうに頷き返した。


「じゃあ、また一緒に出かけようね!」


その約束を交わして、二人は駅前で別れた。美月は軽く手を振りながら去っていき、凪人はその背中をしばらく見つめていた。


「…やっぱり、変わってるな」


凪人は自分でも驚くほど、心の中が穏やかだった。美月との時間を過ごすことで、自分自身が少しずつ変わり始めていることを感じていた。


「もう少し、こういうのも悪くないかもな」


そう呟いて、凪人は自分の帰り道を歩き始めた。美月とのデートを通じて、彼は初めて「人と一緒に過ごす楽しさ」を知ったのかもしれない。そして、それが新しい扉を開くきっかけになったのだ。

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