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第14話:誤解

テスト期間が近づく中、学校内ではもう一つの話題が広がっていた。それは、美月の人気だ。


水城美月――誰もが知っている名前。クラスメイトだけでなく、全校生徒からも一目置かれる存在である彼女は、優れた成績と明るい性格、そしてその魅力的な笑顔で、まさに「学校のアイドル」としての地位を確立していた。


「美月ちゃん、今日も可愛いなぁ…」


「勉強もできて、性格もいいなんて、完璧すぎるよな」


そんな美月に対する称賛の声は、教室の中でも日常的に飛び交っていた。特に男子たちの間では、彼女のことが話題に上がることが多い。


美月はそんな周囲の反応には気づいているが、特に気負うことなく、いつものように笑顔で接していた。彼女にとって、周囲の人気よりも大切なのは友達や、自分自身が楽しく過ごすこと。だからこそ、凪人に対しても素直に接しているのだ。


しかし、凪人にとっては、美月の人気がどこか遠い世界の話のように感じられた。


その日、凪人が教室で美月と話していると、クラスメイトたちの視線が彼に集まっているのを感じた。


「…おい、あいつ、また水城さんと話してるぜ」


「なんであんなヤンキー風の奴が、水城ちゃんと…」


凪人の見た目――鋭い目つきと無愛想な表情、乱れた髪型や制服の着崩し――それが原因で、彼は常に誤解されることが多かった。ヤンキーだと思われ、怖がられることも日常茶飯事だった。


凪人自身はそれを気にする様子もなく、むしろ周囲に干渉されないことを好んでいた。だが、美月のような人気者と一緒にいると、どうしても注目を浴びてしまう。


「……はぁ」


凪人はちらりと周りを見たが、特に反応することなく、美月との会話に戻ろうとした。だが、その時――


「おい、おまえ!」


後ろから、他のクラスの男子達が凪人に声をかけてきた。彼らは凪人を睨みつけながら、嫌味な笑みを浮かべていた。


「お前さ、水城ちゃんと仲良くしてんじゃねぇよ。あの子に何か企んでんじゃないだろうな?」


凪人は一瞬、苛立ちを感じたが、すぐに冷静に返事をする。


「…別に、何もしてない」


「は?何もしてないって、見た目からしてヤンキーだろうが。そんな奴が水城ちゃんに近づくなんて、ありえねぇだろ」


彼らは凪人をヤンキーだと決めつけ、美月に近づくことに反感を抱いているようだった。周囲から誤解されることには慣れていた凪人だが、この状況では美月に迷惑がかかるかもしれないと思った。


「何だよ、その目つき…やんのか?」


一人が挑発的に凪人に詰め寄る。だが、凪人は一切動じず、その男をじっと見つめ返した。


「…やる気はない。でも、お前らがやる気なら、止めはしない」


凪人の冷たい言葉と鋭い視線が、相手を一瞬怯ませた。


「くっ…何だよ、こいつ…」


相手は凪人の迫力に押され、後ずさる。しかし、凪人が相手に手を出さないのは自明で、結局その場は騒ぎになることなく終わった。


「…気にするな」


凪人は一言だけ言い残し、再び教科書に視線を戻した。美月が凪人の方を心配そうに見つめていたが、彼の無関心な態度に、何も言わずにただ見守るしかなかった。


昼休み、優奈が美月と凪人のところに駆け寄ってきた。


「美月、美月!今、廊下で聞いたんだけど、また櫻井くんが絡まれてたって…大丈夫だったの?」


「うん、大丈夫。櫻井くんは、そんなことで動じないから」


美月は優奈に微笑んで答えた。彼女は凪人の冷静さに安心していたが、同時にその強さが、彼をさらに孤立させてしまうことを心配していた。


「そうなんだ。でもさ、美月ちゃんってほんとに人気者だよね。櫻井くんみたいな人がそばにいると、目立っちゃうんだよ、きっと」


「…うん、わかってる」


美月は静かに頷いた。彼女自身も、自分が注目されていることを知っていたし、それが凪人に影響を与えていることも理解していた。


「でもね、私は櫻井くんのことを知ってるし、彼がどういう人かちゃんとわかってる。だから、他の人が何を言っても気にしない」


美月の言葉には、揺るぎない信頼が込められていた。彼女の目には、凪人が「ヤンキー」だという誤解ではなく、彼の本当の姿が映っていた。


「美月、さすがだね!でも、あんまり無理しないでね。櫻井くんが頼りになるならいいけど…」


優奈は少し心配そうに言ったが、美月はその言葉に微笑んで応えた。


その日の放課後、凪人と美月は一緒に帰り道を歩いていた。


「今日は絡まれてたね。大丈夫だった?」

美月が優しく声をかけると、凪人は小さく頷いた。


「まあ、慣れてる。ああいうのは気にしない」


凪人は無表情で答えたが、美月はその言葉に少しだけ胸が痛んだ。凪人が周りから誤解されていることに、彼女はずっと気づいていたし、それが彼の心にどう影響しているかも感じていた。


「でも、私は…櫻井くんのこと、ちゃんとわかってるよ」


美月はふと立ち止まり、凪人を真っ直ぐに見つめた。その瞳には揺るぎない信頼が込められている。


「見た目なんて関係ない。私は櫻井くんがどんな人か知ってる。だから、みんなが何を言おうと、私は気にしないよ」


その言葉に、凪人は一瞬言葉を失った。普段、無口でクールな自分に対して、ここまで真っ直ぐに向き合ってくれる人間は今までいなかった。


「…お前、変わってるな」


凪人は苦笑いを浮かべたが、どこか少しだけ嬉しそうだった。


「でも、ありがとう」


その小さな「ありがとう」は、美月の心にしっかりと届いた。彼の不器用ながらも誠実な態度に、美月は微笑んで頷いた。


「うん!これからもよろしくね」

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