第12話:テスト期間
桜の花が散り、初夏の風が吹き始める頃、高校では最初の試練となる定期テストが近づいていた。
教室内は普段とは違った空気が漂い、クラスメイトたちはテスト勉強の話題で盛り上がっていた。休み時間には、教科書を開いて黙々と勉強している生徒や、友達と問題を解き合う生徒が目立つ。
櫻井凪人にとって、テストは特に嫌なものではなかった。中の上レベルの学力を持つ彼は、適当に勉強しても点数を取ることができる。どちらかといえば、彼にとってテストは「面倒くさい行事」の一つに過ぎなかった。
「まぁ、いつも通りにやればそれなりにいけるだろ」
そう考えながら、凪人は教科書をちらりと眺めるが、やる気が続くわけでもなく、すぐにノートを閉じてしまう。
一方、教室の端で、美月はすでに真剣な顔で勉強をしていた。彼女はクラスでもトップレベルの成績を誇り、いつも前向きに勉強に取り組んでいる。そんな彼女の姿を、凪人は少しだけ気にしていた。
「美月、なんかすごいな…」
凪人は内心でそう思いながらも、特に自分から話しかけることはない。ただ、彼女がいつも以上に頑張っているのを感じ、少し自分もやらなきゃなとぼんやり考えていた。
放課後、美月が凪人のところへやってきた。
「櫻井くん、もうすぐテストだね。勉強、進んでる?」
彼女はにこやかに声をかけたが、凪人は面倒そうに肩をすくめる。
「うーん、まぁ、適当にやればなんとかなるだろ」
その言葉に、美月は少しだけ笑った。
「そうなの?でも、せっかくだし、よかったら一緒に勉強しない?」
「一緒に?」
美月の提案に、凪人は少し戸惑った。今まで、誰かと一緒に勉強するという経験はあまりなかったし、ましてや美月のような優等生と一緒に勉強するなんて想像もしていなかった。
「私も一人でやるより、誰かと一緒にやった方が楽しいと思うし、ね?」
美月の言葉に、凪人はしばらく考えた後、しぶしぶ頷いた。
「…まぁ、いいか。どうせ、やらなきゃならないしな」
美月は嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、今日の放課後、図書室で一緒にやろう!」
その日の放課後、凪人と美月は一緒に図書室へ向かった。
静かな図書室の中で、二人は隣り合わせで席に座り、それぞれの教科書を開く。凪人は、普段ならあまり集中できない勉強も、美月と一緒にいることで少しだけ気合が入っていた。
「…わからないところがあったら、聞いてね」
美月はそう言いながら、自分のノートに問題を解いていた。彼女のノートは綺麗に整理され、何もかもが計画的に進んでいるように見えた。それに比べて、凪人のノートは無造作に書かれたメモや図が散らばっているだけで、整理されているとは言い難い。
「お前、すごいな…こんなにきちんと勉強してるのか」
凪人は思わず、感心したように美月のノートを覗き込んだ。彼女は少し照れくさそうに笑った。
「ううん、私はただ好きなだけ。勉強するのが楽しいって思えるんだ」
「楽しい…か」
凪人はその言葉に少し驚いた。自分にとって勉強は義務でしかなかったが、美月にとってはそれが「楽しみ」だというのだ。その違いが、彼には少し理解できなかった。
「勉強が楽しいなんて、すごい考え方だな」
「うん、でも櫻井くんも、運動が楽しいんでしょ?それと同じだよ」
美月はニコニコと話し続ける。彼女の言葉は軽やかで、凪人にとっては新鮮だった。
「運動が楽しい、か…」
確かに凪人にとって運動は楽しいものだった。だが、過去のトラウマから来る恐怖が、それを遮ることもある。美月のように純粋に何かを楽しむことができる彼女を、少し羨ましく感じた。
数時間が経ち、二人は黙々と勉強を進めていた。
ふと、美月が顔を上げ、凪人に問いかけた。
「ところで、数学は大丈夫?さっき、ちょっと困ってるように見えたけど」
凪人は少しだけ困ったように苦笑した。
「いや、あんまり得意じゃないんだよな」
「そっか…じゃあ、少し教えようか?」
「…助かる」
凪人は不器用ながらも感謝の意を伝えた。美月が隣で優しく説明をしながら、彼は次第に問題の解き方を理解していった。美月の説明はわかりやすく、彼にとっては非常に助けになるものだった。
「ありがとう、助かった」
「ううん、全然気にしないで!またいつでも聞いてね」
美月の言葉に、凪人は静かに頷いた。彼女との勉強時間は思った以上に楽しいものだった。そして、その時間が、少しずつ彼の心に新しい感情を芽生えさせていく。
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